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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第三章 水無月(六月)

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50.六月十七日 終日非番 勝負(閑話)

 山間いの未舗装路を抜けてから、辛うじて舗装されている群道へと滑り出たハンターカブはものすごい速度でコーナーを曲がっていく。やがて広い県道を進んでから河川沿いの脇道へと入っていった。


 今日は久しぶりの完全非番である。住み込みの運転手として働いているため丸一日休みになることはほぼ無い。そのことは別に不満でもなんでもないし、むしろ大怪我をしてどうにもならない自分を拾ってくれた会社には、一生かかっても返しきれない恩があると考えている。


 今までは気が向いた時に会社や買い物へ行く社長のために運転することが多かったが、今ではその娘を学校へ送迎するのが主な仕事だ。以前よりははるかに仕事量が増えてはいるが、学校へ送っていったあとは適当に時間を潰しながら帰宅時間を待つだけだし、家まで帰ったらもう仕事は終わりと言う楽過ぎる毎日である。


 こんな堕落した毎日でも食住は保障され、給料はきっちり貰えて有難すぎる生活なのだが、一つ気になると言えば、その娘がやたらに大人びていることだ。決して無理に繕っている様子ではないが、幼少期から大差ないその言動と所作は、社長よりもよほど大人だと感じることもい多い、というか常にかもしれない。


 なんだかよくわからない旧家の当主とは言え、あんな子供が背伸びさせられて無理に大人にされたのではないかと心配になってしまうのだ。だがそんな板倉栄治(いたくら えいじ)には子供どころか連れ合いもいないわけで、不幸かどうかまでは断定することは出来なかった。


 以前の板倉は国内の自動車レースを走るプロドライバーで、三十半ばに差し掛かりロートルもいいところで引退間近だった。四十前には引退して適当に付き合ってきたレースクイーン上がりの女と結婚するかなんて話もあったが、五年前に頭がい骨骨折の大事故を起こし、その時に自分のミスで火災に巻き込まれて頭皮と顔面に酷いやけど跡が残り頭皮半分の髪の毛まで失った。


 そんな見た目になってしまったことから、女だけではなく周囲から人は去り、引退なんて生易しい末路ではなくなってしまったのだ。しかしそれをどこで聞きつけたのか、たった高校三年間の付き合いだったボンボンが板倉を捜し声をかけて来た。


 同級生だった九遠寄時(くおん よりとき)とは高校のバイク仲間である。田舎の小さい町に収まりつづけるのが嫌だとバイクに乗ってあちこち出かけたが、結構な頻度で寄時と一緒だった。卒業と同時に板倉はレースをやっているチューニングショップへ就職、寄時は東京の大学へと進み関係はそれっきりとなっていた。


 それなのに、怪我の治療をしながら中核都市で警備員や運送業を転々としていた板倉を探して仕事の世話をするといいだして、親から継いだ会社の社長運転手と言う名ばかりの閑職を与えてくれたのが三年前のことだ。


 閑職と言ってもそれは外見に問題を抱えることになった板倉のために用意した、人と関わらなくて済む仕事である。社長と言うのも寄時の姉で、山奥の旧家へ嫁に行った櫛田手繰(くしだ たぐり)であり、仕事は手繰とその家族の専属運転手と言う気楽な物だった。


 そんな板倉の今の主人は、社長の娘である櫛田八早月(くしだ やよい)と言っても良く、別に必要としてなかった休みを無理やり押し付けてきた張本人なのだ。


◇◇◇


「いいですか板倉さん、そりゃ世間一般の仕事よりは暇かもしれません。

 でもやっぱり休みがあればないよりは嬉しいでしょう?

 車も勝手に使っていいですから、一日でも二日でも楽しく過ごしてくださいな」


「はあ、でも急用ができたら困りますよ?

 せめて近所にいた方が良くはないでしょうか?」


「急用が出来たらタクシーを呼ぶことだってできますからご心配なく。

 病気なら救急車だってありますよ?

 私は自分の満足感の為にも板倉さんにお休みを取ってもらいたいのです。

 自己満足の偽善者で申し訳ありませんが、納得してもらえませんか?」


「かしこまりました、そこまで言われたらお断りできません。

 ありがたくお休みをいただきます。

 今度の土日でいいのですかね?」


「はい、旅行でもなんでも構いませんよ。

 女性と知り合う機会もないでしょうからそういうところへ行くのもいいですね。

 とにかく何でもいいので楽しんで来てくださいな」


◇◇◇


 板倉は以前のやり取りを思い出し、小さな主人の大きな気遣いに感謝していた。それからは月に一、二度は休みを貰って気ままに一人ツーリングを楽しんでいるのだ。若い頃を思い出してみれば、彼女を後ろに乗せて遠くの海まで走ったこともあった。


 さて今日はどこへ行こうか、と言いながらも毎回同じところへ来てしまっている。原付に乗って一時間ほどの場所にたどり着くと、駐輪場からテクテクと歩き出す。入り口で新聞を買ってから赤鉛筆を取り出し、懐かしいタイヤの焦げる匂いを嗅ぎながら心を高ぶらせながら叫んでいた。


「行けー! そこだ! まくれー! バッキャロ!」


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