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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第二章 皐月(五月)

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34.五月十八日 朝 いとこ

 まだ朝靄が残っている早朝、本家である櫛田家の庭には少年少女が倒れていた。少年の名は四宮直臣(しのみや ただおみ)、少女は六田楓(むた かえで)、櫛田家当主である八早月(やよい)の従妹が真宵(まよい)にしごかれへばって倒れているところだ。


 その八早月はと言うと、すでに立っているのがやっとという様子のドロシーを竹刀で叩きながら姿勢を正すよう指導している。木刀を構えてからすでに一時間半ほどが経っており、ドロシーの腕はパンパンで、膝は今にも崩れ落ちそうになっている。


「ほらしっかりなさい、できれば姿勢を崩さずに四、五時間は頑張って下さい。

 それでは実戦練習に入ることもできませんよ?」


「ひ、筆頭様、今日はこの辺でカンベンしてくれまセヌか?

 このままでは腕が上がらず黒板に手が届かないデース」


「そうですね、仕事に支障が出ては問題かも知れません。

 最後に打ち込みを耐えて終わりにしましょうか。

 申し訳ないですが、私の背にあわせて構えを下げてもらえますか?」


 ドロシーが言われるがままに構えを下げると、なんとも可愛らしい少女剣士の打ち込みが始まった。構えた木刀に竹刀で打ち込まれているので衝撃は大分少ない。それでも十分に鍛えられた連撃は徐々にドロシーの腕に負担をかけて行った。


「ふひゃあ、もうダメなのです、ご勘弁を……

 授業が、授業が……」


「では今朝はここまでにします、お疲れさまでした。

 楓と直臣もそろそろ起きて体を流して来なさい。

 二人とも基礎鍛錬がなっていませんね。

 ドリーのほうがまだわずかにマシでしょうか」


「そう言われましても…… 朝からこの練習量は…… 厳しい……

 八早月様はいつもこのメニューをこなしているなんて」


「ママも毎朝やっているけどここまでじゃないわ。

 直臣はともかくウチは体力に自信あったのにこれだもの……」


「せっかく稽古つけると張り切ったので普段よりは頑張ってますよ。

 三人に後れを取るなんてことがあったら恥ずかしいですからね。

 それと、公式の場ではないので話し方はそれほど畏まらないで構いませんよ?

 もちろん学校でも友人のように接してください、従妹なのですからね」


 八早月は三人を気遣ってこう言ったが、実際にはもっと厳しい訓練を行うこともあった。少なくともお役目の日には広範囲を見回るのだから持久力が必要だ。いくら呼士(よびし)の力を借りて空を駆けることができると言っても、地べたを歩いて散策することも多いため普段の鍛錬は欠かせない。


 半人前ながらすでに当主であるドロシーは、自身の呼士である春凪を呼び出し自宅まで抱えて運ぶように命じ帰っていった。同じ九遠学園の英会話教師である彼女は、さすがに生徒と一緒に通勤するのは気が引けると言って、朝の鍛錬後は家へ戻ってから出勤している。


 直臣と楓の二人は八早月の家でシャワーを浴び、朝食を共に取ってから板倉の運転で学校へ通っていた。まだ慣れない生活に二人は疲労困憊である。


 早々にぎっくり腰から復帰した下女の北条玉枝は、朝食の用意する数が増えたことを孫が増えたかのように喜び、毎朝ご機嫌で世話を焼いてくれる。母である手繰(たぐり)も嫌な顔など見せずに二人を歓迎している様子だ。


「そうそう、お母さまに伺おうと思って忘れておりました。

 私共の通う九遠学園はお母さまの親族が経営していると言うのは事実ですか?

 まったく寝耳に水で友達から聞かされて初めて知ったのですよ?

 またもや恥をかいてしまいました」


「あらあら、ママの旧姓で察しているかと思ってたのに今更なの?

 理事長の九遠兆次(くおん ちょうじ)はママの叔父さんに当たるわね。

 つまりグランパの弟ってこと」


「筆頭は知らなかったのかもしれないが、九遠家は八家と縁深い家系です。

 たたら場で使う燃料を長年卸していましたからね。

 その付き合いから教育の場を作ってくれたのが四代前の九遠ご当主らしいです」


「あら、直臣君は良く知ってるのね。

 でも今は当主を弟が継いだから、学園創設者は五代前の当主ね。

 もちろんママは知らないご先祖様だけど、写真を見るとちょっと怖い方かも。

 髭が凄く長くてね、子供の頃に見た時にはちょっと妖怪っぽいなんて思ってたわ」


「自分のご先祖様に酷い言い様ですね……

 まあそれはともかく、その立場を使わせて頂くかもしれません。

 例えば学年途中での編入者を受け入れるなんて簡単な話ですよね?」


「そうね、寄時(よりとき)君か兆次叔父さんに頼めば大概は通るはずよ。

 誰かお友達でも誘いたいのかしら? 八早月ちゃんにしては珍しいこと言うわね」


「まだ調査中なのですが、妖憑(あやかしつ)きの恐れがある中学生がおりまして。

 安全確保と警護のため近くに置こうかと考えております。

 今は久野中へ通っているので編入させた方がこちらは動きやすいのですけどね。

 こればかりは本人とご両親に聞いてみないとどうなるかわかりません」


 妖のことはほぼ何も知らない手繰とは言え、念のため話を通しておくに越したことはない。いざという時になって慌てて対処するよりもあらかじめ検討しておくことが大切だからだ。


「それは例の地鎮祭で出会った少女のことね?

 ママが言っていたけど呼士が見えてるって言ってたわ。

 その子に妖が憑いてしまっているの?」


「妖憑きはあくまで推測なのだけどね。

 周辺に不穏な気配があることは間違いないの。

 こちらは臣人さんと耕太郎さんに探ってもらっているわ」


 こうして従妹同士が気楽に話しているところを見て手繰はなにか思うところがあったらしく、八早月へ向かって余計なことを言ってしまい場の空気を凍りつかせてしまった。


「いつの間にかみんな仲良しさんになったのね。

 まるで若い時のパパと櫻さんたちを見てるようで微笑ましいわぁ」


「ああ、あの方も生前はまともだったのですね。

 晩年を穢してしまって本当に残念です」


「あ、直臣君? おかわりはどう?

 あらあら、そろそろ支度しないと遅刻しちゃうわね。

 板倉君はもう待ってるのかしら?

 あの、八早月ちゃん? 学園のことはちゃんと聞いておくわね」


「はいお母さま、お願いいたします。

 そんなに急いではおりませんからゆっくりで構いません。

 さ、そろそろ準備をして向かいましょうか」


 直臣と楓は、これが噂に聞いていた当主の地雷なのかと震え上がる思いだった。


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 お読みいただき誠にありがとうございます。数ある作品の中から拙作をクリックしてくださったこと感謝いたします。少しでも楽しめたと感じていただけたならその旨をお伝えくださいますと嬉しいです。


 ぜひブックマークやいいね、評価(★★★★★)でお寄せください。また感想等もお待ちしておりますので、併せてお願いいたします。


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