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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第二章 皐月(五月)

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32.五月十日 午前 地鎮祭

 まったくひどい話になったもんだ。自業自得とは言え、六田櫻(むたさくら)は己の無力さを悔いていた。まだマシだったのは、愛娘の(かえで)だけでなく四宮家の直臣(ただおみ)に巻き添えのドロシーも一緒だと言うことくらいか。


 もしマンツーマンだったならと考えると、想像するだけで恐ろしく脂汗が噴き出しそうだった。そんな心配をしながら見学した朝の鍛錬は本当に軽いものだけだったので、いくら今まで怠けていた楓でも数日すれば慣れてくるだろう。今後の参考になればと初日の見学を申し出た櫻は安堵していた。


 それにしても驚いたのは、十四歳までは母国にいて八畑村の文化に触れたこともなかったドロシーが、七草の後継者たる八岐贄(やまたにえ)となってから十年でここまで力をつけていたことだ。


 通常は八歳で八岐贄となり、伸びの良い幼少期から修行を重ねて二十年でもまだ一人前とは行かぬもの。現に三神家の後継である太一郎(たいちろう)は二十八になって未だ修行中の身であり、一人前にはまだ時間を要するだろう。


 こうして五時過ぎから子供らの鍛錬に付添い学校へ送り出した櫻は、もう一眠りしようと自宅へと戻った。しかし眠い目をこすっている櫻に告げられたのは、本日午前中に予定している神事だった。


 六田家が継承している鎮地鎚(しずみちのつち)はその名の通り地を鎮める鎚である。その力は、世界中の地面に根を生やしている気の流れである地脈、すなわち龍脈へ影響を持つ地龍を鎮める効果がある。


 その力を用いた神事の一つを地鎮祭と言い、家を建てる際に執り行うことで無事に建築工事が進むよう祈る行事である。これは八岐神社の貴重な収入源であり、六田家に課せられたお役目となっている。


 当然以前から予定が入っていたのだが、櫻は朝の修行に気を取られすっかり失念していた。帰宅後に番頭兼秘書の遠山修実(とおやま おさみ)にそのことを聞かされ卒倒しそうになった。


 現代では龍脈を信じる者は少ないどころか、地龍が災害を起こすなど誰も信じていない。地鎮祭など形式的な物に過ぎないと、執り行う側の櫻までもがそう考えているし、実際にそれが真理だった。


 それでも神事祭事をおろそかにしては飯の種が無くなると言うものだ。櫻はこれも当主の仕事だと諦めて出かける準備を進める。ちなみにこう言ったお役目を現代まで持ち続けているのは六田家のみで、他の家には(あやかし)討伐以外に特殊な仕事はすでに無い。



 午前九時半、八岐神社の宮司である八畑由布鉄(やはた ゆうてつ)と櫻は、遠山の運転で近隣の久野町へやって来た。町と言っても八畑村よりは栄えている程度で所詮村に毛の生えた規模の小さな町だった。しかし過去の政治的判断により町へ引き上げられ、県立高校の誘致を境に大分栄えて今に至る。


「これはこれは、ようこそおいでくださいました。

 現場はこちらになりまして、すでに用意はできております。

 お足下お気を付けくださいませ」


「本日はよろしくお頼み申す。

 私は宮司の八畑由布鉄、こちらは巫女の六田櫻殿でございます。

 今回は古来の方法にのっとり神杭(かみくい)を打ち込みたいとのこと。

 今時にしては随分と信心深くまことにありがたく存じます」


 現場監督と言うより工務店の担当者であろうスーツを着た男性と宮司の言う通り、今日はいつものように祈祷だけというわけではない。神杭の打ち込みと言うのはご神木の写しとして特別に(あつら)えた形代(かたしろ)杭を敷地内へと打ち込むものだ。


 神事なのでもちろん機械でやるわけもなく、宮司が清めた木槌を使って職人たちが人力で打ち込んでいくのだが、ここで櫻の呼士(よびし)が手助けをする習わしだ。建築前の土壌なので別段固い岩盤ではなく杭を打ち込むこと自体は容易だが、呼士が打ち込むことで妖を寄せ付けない効果が付与される。


 今回の施主がそれを知っているのか信じているのかはわからないが、宮司の言う通り信心深いのであれば、神職である宮司や巫女にとって好ましい相手であるのは間違いない。


 櫻はふと気になって工事看板を探したが、敷地内にいるため裏側しか見えない。まあ施主がどのような人物であっても、今時神社を使ってくれるだけでありがたいと思っておけばよいし、わざわざ知る必要もあるまい。


 全ての準備が整い、宮司による祈祷から事は始められた。地鎮祭自体は決まった手順に沿って進められていき、清めの後にいよいよ杭打ちが行われる。大工たち職人が杭を支え、宮司の八畑が第一棍を突いた。


 職人たちが半分埋まるほどまで突いた辺りで宮司によって制止されると、櫻の、いやその呼士である弧浦(こうら)の出番となり櫻は木槌を構えた。


「では(あるじ)様、ひと息で参るぞ?

 はああ、そりゃああ!」


 弧浦が雄叫びと共に自慢の大槌を振り下ろすと、神杭は地面と平らなところまで一気に打ち込まれた。見ていた人たちには桜が木槌で軽くたたいたようにしか見えないにも拘らず、地表まで打ち込まれた杭を見て驚愕の声を上げている。


 櫻にしてみれば当たり前のことなのだが、こんなおかしな現象が目の前で起こっているのに誰も騒がないならその方がおかしいといつも思っている。しかし――


「すごいわ! オジサンってどこから来たの?

 力持ちなのねぇ、言葉は通じるの?

 私の言っていることがわかる?」


「こらこら綾乃(あやの)、神事の邪魔をしてはいけないよ。

 宮司様、巫女様、失礼いたしました。

 私は施主の寒鳴(さむなき)と申します。

 娘が失礼をいたしまして申し訳ございません。

 こうして時折おかしなことを言う娘でして、どうかお気になさらないで下さい」


「い、いえ、特に問題はございません。

 綾乃さんと申しましたか? うちの娘と同じくらいでしょうか。

 とても良い感性をお持ちですね」


 櫻はこの寒鳴綾乃と言う娘が、間違いなく呼士の弧浦を視認していたと確信し、どう対応するか悩んでいた。だが目の前では綾乃がニコニコと微笑むだけだった。


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