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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第二章 皐月(五月)

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23.五月四日 午前中 ポジティブ思考

 山深い田舎の集落である八畑村には未だ入ってきていない言葉かもしれないが、『ちょろい』と言うのはまさにこのような事をいうのだろう。手繰(たぐり)の注ぐ母の愛によって八早月(やよい)の機嫌は徐々に(ほぐ)れていく。


「ほら、やっぱり八早月ちゃんは泣いてなんかいないじゃない。

 大丈夫、ワンピースは汚れてないわよ。

 もう板倉君が玄関で待っているから早く出かけましょう?

 帰りの時間までママは会社で待っているから楽しんできなさいな」


「こんな私でも友達に嫌われていませんか?

 私は憎い相手を殺したいだなんて醜い考えを持ってしまったのです」


「あらあらおおげさねぇ。

 思っただけで実際には何もしていないんだから平気よ?

 そんなに不安な顔をしている方が嫌われてしまうわ」


「はい…… お母さまがそう言うならそうかもしれませんが……

 でもきっと美晴さんも夢路さんも許して下さらないでしょう」


「いつものように素敵に笑っていれば大丈夫って言っているでしょ?

 そうだ、行きがけに生菓子でも買っていきましょうか。

 おみやげにしたらきっと喜んでくれるわよ?」


 いくら八早月が旧家の当主で重責を担っている立場だと言ってもしょせん十二歳の子供である。母の愛が全て自分に向けられているわけではないことを、頭はで理解していても不満に感じるものだ。


 だがそれを感じさせない手繰の巧みな言葉によって、いつの間にか車に乗せられ揺られている。学園のある街まではおよそ一時間の道のりだが、その途中にある別の街でケーキを買ってもらったことが相当に効いたようだ。八早月の機嫌はほぼ回復していた。


「いい? 八早月ちゃん。

 友達だからと言って全て話さなければいけないわけじゃないの。

 誰だってたまには誰かを憎んだり恨んだりすることはあるわ。

 そのことをあなたは誰よりもわかっているはずでしょう?」


「はい、お母さま、確かにその通りです。

 他ならぬ私のお役目がそのためのものであることを忘れてはいけませんよね。

 危うく私自身が(あやかし)に囚われるところでした」


「そうね、ママがもっとわかってあげられればいいのだけど……

 八早月ちゃんたちの苦労を知ることが出来なくてごめんなさい。

 それでも困ったことや悩むことがあったら相談してちょうだいね」


「はい、いつもありがとうございます。

 お母さまにはいつも助けていただいて嬉しい。

 しかしその無限のやさしさに漬け込む輩がいると思うと……」


「あらあら、また心が曇ってきているみたいね。

 せっかく楽しい時間が待っているのだから楽しいことを考えましょ?

 ほら、そろそろ着くわよ? 待ち合わせは学園でいいのかしら?」


「はい、私はまだこの街で目印になりそうな場所を学園しか知らないの。

 お母さま、ケーキのご用意ありがとう。

 ちゃんと気持ちを切り替えて楽しんできますね」


 休日で正門の閉まっている学園前に立っている二人の少女を捉えたのか、黒塗りのワゴン車はそのすぐ前に停車した。スーツにハンチング帽、そして白い手袋をした痩せた男が素早く飛び出してくる。


 男は手慣れた様子でスライドドアを開けると、立っている少女たちと車内とへ交互に目をやり、お辞儀をしながら手を差し伸べた。


「こりゃどうも、お嬢のご学友さんたち、お迎えご苦労様です。

 ではお嬢、いってらっしゃいませ。

 ご連絡あればすぐにお迎えに上がります。

 でもここまで十分程度はかかりますんで、そのつもりでいてくださいな」


「八早月ちゃん、それじゃ行ってらっしゃいね。

 はい、これを忘れちゃだめよ?」


 手繰が隣から洋菓子店の箱を手渡すと、八早月は板倉の手を取って車から降りた。校門の前で待ち合わせていた美晴(みはる)夢路(ゆめじ)は緊張しながらペコリと挨拶をし、手繰は二人に対して『八早月の母です』と名乗りながら笑顔で頭を下げた。


 車が走り去った後、美晴は息を大きく吐き出して緊張が解けたことを表し、それに釣られたように夢路は笑い出した。こうなるといつもの三人と言う感じで気楽に話が出来そうだ。さっそく揃って美晴の家へ向かって歩き出した。


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