223.十二月二十一日 朝 大ハプニング
この日も朝から上機嫌で飛雄と話をしながら鍛錬し、その余韻を味わいながら学校へ行くはずだった八早月は、家を出る直前になってから予想外のことを知らされ一気に沈み込んでしまった。
「お嬢? あんなに仲の良いご学友なんですから誰も気にやしませんって。
また皆さん連れて自宅に集まればいいじゃありませんか。
ケーキと料理は私が買いに行ってきますから全く問題ございやせんぜ?」
「確かにその通りでしょう、ですが私が約束を破ったことに変わりはありません。
皆さんにはきちんと謝らなければなりませんし、板倉さんにも余計な面倒をかけることとなり申し訳ありません」
「お嬢はいつも気にし過ぎですよ、そんなの約束を破ったことにはなりません。
ちょっと場所が変わるだけじゃないですか、洋風の場所を用意したかったお気持ちは察しますがね」
「ではせめてピカピカする灯りを飾ろうかしら。あれも誕生日用なのでしょ?
電気で動いているのだろうから電気屋さんに売っていますか?」
「そりゃ売ってると思いますが、アレはよその神さんを祝うやつですぜ?
お嬢的にはそれでいいのかと私の方が考え込んでしまいそうです」
「ああ、アレはそう言うことなのね、誕生日用の洋風装飾かと思っていました。
となるとケーキにロウソクを立てるくらいしか思い浮かびません。
しかもケーキは夢路さんが用意してくるので私の出番は無さそうです」
「それなら料理の盛り付けを―― と言ってもご友人とご一緒に帰宅でしたね。
まあこう言う物は気持ちが一番大切ですから気にせず伝えたらよろしいですよ」
明日は美晴の誕生日と言うこともあり、綾乃の時同様九遠エネルギーの迎賓棟を借りて誕生日パーティーを開くつもりだった。しかし当日は土曜日のため会社は休みで立ち入りが出来ない。八早月は、部屋を使うだけなので何とかならないかと母の手繰へ尋ねたが、危険物を取り扱っている会社なこともあり、外部からの出入りは厳しく管理されているとのことで諦めるしかなかった。
となると気兼ねなく使える場所は櫛田家のみとなる。八早月にとって友人の誕生日は洋風で豪華にしなければならないという固定観念があるらしく、築百年どころではない自宅では雰囲気が出ないと落ち込んでいるのだ。
それでも学校へ到着するまでの間、板倉がアレコレと案を出したり励ましたりしたことで大分気分は回復した。あとは正直に伝えれば友人たちは全く気にせず出来る範囲で楽しもうと言ってくれるに違いない、八早月はそう願いながらいつもの場所で車を降りた。
「八早月ちゃんおはよう、今日はちょっと早いね、飛雄さんとお話してたの?
もうすっかり恋人同士って感じで羨ましくなっちゃうなあ」
「綾乃さんおはようございます、朝の電話は私が通学の支度をするまでだけよ。
今朝はそれどころではない事態が起こったので早めに来たのです。
明日なのですが、叔父様の会社はお休みで使えないことがわかったのよ!」
「まあそりゃそうだよね、私たちが遊ぶから会社開けてなんてあり得ないもん。
場所はどこでも構わないでしょ、うちでもいいかママに聞いてみようか?」
「ご両親にご迷惑でないならいいのだけれど無理はしないでね。
少し遠いけれど皆さえよければうちを提供するのはやぶさかではないわ」
「そうだねえ、うちだと居間になるから両親も参加することになっちゃうかも。
気兼ねなくできるのは八早月ちゃんちかな、甘えちゃってもいい?」
「もちろん、でも遠くて何もないのが申し訳ないし町よりは寒いでしょうね。
山道は大分雪が積もってきているから出歩くことも難しいと思うの。
それでも来てくれるなら最大限でおもてなしすると誓うわ!」
「ついでに冬休みの宿題を進めるってのはどう? 一人だと捗らないでしょ?
できれば年内に終わらせちゃいたいし、そうしたら気楽に出かけられるよ?」
「それはそうだけど特に出かける予定は―― なくも、ない、かもしれない。
正直わからないところも多いから助かるわ、綾乃さんは本当に頼もしい!」
八早月がそんな風に大げさなことを言っている間に、美晴と夢路が路地向こうからやって来た。美晴は朝から機嫌良さそうに満面の笑みで跳ねるように歩いており、八早月はこれから謝罪しなければならないことに緊張感を高めた。
「―― なーんだそんなこと? 八早月ちゃんてば気にし過ぎだよ。
場所なんてどこでもいいし八早月ちゃんちならむしろ大歓迎に決まってる。
でももう積もるほど降ってたなんて驚き、こっちとは結構違うんだね」
「そうなのよ、だから冷えないよう綿入れか何かを準備してきてね。
うちにも褞袍はあるけれどいかにも田舎娘でかわいくないのよね」
「どてら!? アタシ一回も着たこと無いから借りてもいい? 楽しみだー
こないだはテスト前だから楽しみきれなかったけど今回は冬休みだもん
お菓子もいっぱい用意しないとだ、途中で買い物に寄れるかな?」
「お料理とお菓子や飲み物は板倉さんへ頼んだから用意しておいてくれるわ。
だから皆は身一つで来ていただければ大丈夫よ、ケーキは夢路さんが用意しているのよね?」
先ほどからやけに大人しい夢路に確認するが返事が返ってこない。今までこんなことは無かったのだが、それほど迎賓棟が使えなかったことがショックだったのだろうかと八早月は不安になってしまった。
「ちょっと夢? 朝から変だけどなにかあったわけ? 返事くらいしなさ――」
「夢ちゃんどうしたの!? そんな突然! 大丈夫!?」
「私がきちんと確認しておかなかったから予定が狂ってしまったものね。
本当にごめんなさい、今回だけは勘弁してもらえないかしら……」
しかし突然涙を流し始めた夢路は泣き声を抑えるだけで精いっぱいの様子、まともに口が利ける雰囲気ではない。幸いまだ通学路に出たばかりのところなので、四人は人目を避けるよう路地へと入った。
「うっ、ひっ、うっ…… ゴメン、急に泣いちゃったりして…… ぐすっ。
実はね、昨日スポンジ焼いてたんだけど途中でオーブンが壊れちゃったの。
だからケーキが作れなくなっちゃって…… ハルの誕生日なのにゴメン。
楽しみにしてるのわかってたから絶対作りたかったんだけど、ぐっ、ぐすっ」
「そんなことで泣かなくていいってば、その気持ちだけで十分だよ。
お祝いしてくれるだけで嬉しいんだから気にしないでよね。
ケーキは夢路のおまけみたいなもん、夢がいつも通りなのが一番なんだから」
「ハルぅ…… ゴメンネ、ごめんねええ、うわあぁん……」
どうやら夢路のショックは相当なものだったようだ。そんな繊細な一面を露わにした彼女がようやく泣き止んだころ、八早月は自分の悩みなどもうどうでもよくなっていた。
こうしてさらに絆を高めた少女たちは、遅刻寸前となっていることに気付き大笑いしながら校門を駆け抜けていった。




