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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第二章 皐月(五月)

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19.五月三日 夜 偏向仕合

 分家当主七人の準備が済み八早月(やよい)が西側に立ち全ての準備が整うと、演舞場は異様な雰囲気に包み込まれていく。それでもその場に立っている者の中に緊張とは無縁の者が一人だけいた。


 イングランド国生まれのドロシーは、この一対七の仕合に一体どれほどの価値があるのか値踏みするような視点で考え込んでいたのだ。この中では技量が数段下のドロシーははっきり言って戦力外だと自覚している。それでも猛者六人が一斉に挑むのだから勝ち目がないとは思えなかった。


 母国のブックメイカーならどれくらいのオッズを掲示するだろうか。ボクシングの試合ならどれほどの観客が集まり、ファイトマネーはいくらくらい積まれるのだろうか。不謹慎ながらそう考えさせるだけの魅力がある戦いなのは間違いない。


 八家の序列に応じた資質は数字で表せるようなものではないが、強さで言えば概ね足し算することでいい勝負になることが多い。長期不在だった七草は除外するとしても、六田と五日市の当主が協力すれば四宮を倒せるし、五日市と四宮で三神を上回れると言った具合だ。


 本家は別格であると誰もが認識はしているが、それでも全員でかかればいい勝負ではないだろうか。問題はきちんと連携が取れるかどうか、現に矢面(やづら)へ引っ張り出された当主たちは負けるつもりではなく、勝つためにどうすべきかを考え事前に相談くらいはしていた。


 作戦はリーチ差を利用した二段構えの攻撃、そして手数で押すという単純なものだ。複雑で付け焼刃的な連携よりも、即効性と実用に重きを置いた策と言えるだろう。


「それではみなさん用意を。準備が出来たら初めて結構です」


 八早月はそう言いつつも真宵を呼び出さずに自然体で立っている。構えを見られて剣筋の予測をされるのを嫌った、傍からはそう見える。


「では推して参る」


 分家序列一位の初崎家当宿(やどり)が礼をすると、呼士である須佐乃が抜刀し間合いを詰める。同じように刀を持った三神家の組折(くみおり)、五日市の元恵(げんけい)と息を併せ扇状の三方陣形を取った。双宗家の槍使い麗明(れいめい)と鉾を持つ四宮家の縁丸(えにしまる)はその後ろから好機をうかがっている。


 五人がジリジリと間合いを詰めていくが八早月の構えは変わらない。その時、長柄の二人と刀の三人を縫って七草家のドロシーが生身で奇襲を仕掛け、本体である八早月へ肉弾戦を挑んだ。さらにはその上から呼士の春凪(はるなぎ)洋風の剣(サーベル)を振り下ろす。


 始めに到達したのは春凪の垂直斬りだったが、八早月の頭上数センチのところで弾かれ、春風の腹には横薙ぎの残像だけが闇夜に光った。ほぼ同時に繰り出していたドロシーの足払いは瞬時に現れた剣の鞘で受け止められ八早月まで届いていない。彼女自身は春凪が喰らった斬撃(ざんげき)残滓(ざんし)によって致命傷に等しい精神ダメージを負って悶え転げている。


 しかしこれで戦いの火蓋が切られ、三本の剣が別々の方向から八早月を襲う。それでも八早月は一歩も動かず、須佐乃の初撃を弾き返してから元恵による袈裟斬りを受け流し、最後は組折が突きだした切っ先を半身になって避けきっている。


 そのかわしたところへ麗明の槍が突き出され、ほぼ同時に横一閃、縁丸の鉾による腰下への薙ぎ払いが小さな体を捉える! その瞬間、八早月の身体は棒高跳びを飛ぶような背面反らしで麗明の槍に巻きつくように飛び上がり、可動部を避けて薙ぎ払われたはずの鉾は空を切った。


 しかし空中では無防備になるはずだと見越していた六田櫻の呼士である弧浦(こうら)は、先回りして両手で大槌を振り払っていた。だが少女は背中を反らせていた背筋を一気に戻し、今度は腹側へ体を丸めながら鉄棒のように大槌の柄を使い、槍を空振りしたばかりの麗明の元へ飛ぶように走り寄る。


 頭上を通り過ぎると同時に放たれた一閃で麗明を倒しながら方向を変えると、宙を舞ったままで縁丸の下腹部から逆袈裟の斬撃が放たれた。まるで霞の中のように細かな光を放った縁丸がまだ形を残しているうちに着地した八早月は、取って返して大太刀を振るい終わって隙だらけの元恵を斬り捨てた。


 このわずか数分の一秒の出来事が把握できないまま、それでも視線だけは八早月を見逃すまいと追いかける宿と須佐乃だったが、次に目に入ったのは振り向く間に切られ終わり消えゆく途中の三人と、今まさに八早月(・・・)が振り下ろす小太刀に仕留められんとする組折の姿だった。


 須佐乃が振り向き終わると、弧浦が大槌を振り終わり再び振るおうと腕に力を入れ始めたあたりで、それは八早月が大槌の柄の上を走り終わったころだった。それはつまり須佐乃のすぐ目の前までやって来たと言う事であり、弧浦はすでに切られ終っていると言うことだ。


 須佐乃が直剣を握り直し正対に構えると、八早月にほぼぴたりと重なっていた霊体の真宵が姿を表し(あるじ)の右後ろに下がり小太刀を鞘へと納めた。そのまま流れるように膝を付き控えると須佐乃はようやく状況を把握できた。


 八早月が満足そうに振り返ると、そこは開始時に立っていた場所であり、目の前にはひと仕事終えて主へと(かしず)いている剣客乙女がうつむいている。


「おお、なんともご立派で美しい。

 お二人と同じ場所で剣を一振りできただけで満足です」


「私も同じ気持ちですよ、お疲れさまでした」


 八早月はすぐ横にまだ(・・)存在している須佐乃へ右手を差し出し、優しく声をかけた。埴輪の戦士を模した姿をした古代風の漢は、頭の先から尻にかけて二つに分かれながらキラキラと消えていった。


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