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0-2.三月十六日 午後 仕事

 着替え終わった八早月(やよい)は、取って返すようにまた表へ飛び出すと、再び真宵(まよい)と手を繋いで自宅の庭から(そら)へ向かって走り出した。まずは北へ進み先ほどまでいた分校の上を通り空中を駆け抜けていく。


「もう大分近いですね、すごい数だわ。

 確か去年もこの時期に似たような出来事があったと記憶しています。

 人の情緒が不安定になる季節なのでしょうか」


「春は心地よいだけではなく新生活の季節でもありますから。

 環境が変わり不安や心配事を抱えてしまうのかもしれません。

 八早月様も来月から十分ご注意くださいませ」


「そうね、ありがとう。

 でも私にはいつも真宵さんがついていてくださるから安心しているの。

 こんなに恵まれていることはないわ」


「どうしたのですか? 今日は本当にお褒めが多くてお顔を正視できませぬ。

 本に今日の八早月様は…… いじわるでございます」


 真宵にそう言われた八早月だが、本心を真面目に言っているだけなので言葉のやり取りがうまくできなかった。嫌がっているわけじゃないことくらいはわかるのだが、それならばなんと返せばいいのだろうかと考えてみる。だがその答えよりも先に今やるべきことが見えてきたようだ。


「そろそろ着きますので降りましょう。

 準備は良いですか? あの山道の奥に貯水池が見えますね?

 どうやら(あやかし)はあそこへ集まってきているようです」


 地表へと降り立つと先に駆けつけていた双宗(ふたむね)家当主の聡明(さとあき)がおり、彼の呼士(よびし)である麗明(れいめい)が槍を振り回して戦っている。それにしても大分苦戦しているようだがそれもそのはず、パッと見で数が多すぎて対処が難しそうだ。


「聡明さん、ご苦労様です、随分と数がおおいですね。

 すでに宿(やどり)おじさまと須佐乃(すさの)は別のところへ行ったのですか?」


「はい、ため池にこいつらの元があるようで、無限に湧き続けているのです。

 めでたい日に筆頭様のお手を煩わせてしまい申し訳ありません。

 こちらは私が引き受けますゆえ、池を抑えてくださいませ」


「わかりました、私たちはそちらへ行ってみます。

 真宵さん、向かいましょうか」


 聡明に状況を聞いた二人は貯水池へと向かった。それほど大きい池ではないが、この辺り一帯にある田畑へ水を送り出すための大切なため池だ。被害が続くようなことは避け早めにけりをつけねばならない。


「おお、八早月殿、卒業式はいかがだったかな?

 とは言ってもいつもと大して変わらぬか、わっはっは。

 参列者よりもこちらの客人のほうが大分数が多くて大忙しだわい」


「それだけ余裕があれば大丈夫そうですね。

 なぜこうなっているか、原因はわかりますか?

 周囲を見る限り常世(とこよ)の扉になっている人はいないようですけれど……」


「恐らくは池に浮いている物だと思われますな。

 後は子供が沈んでいたりしないことを祈るばかり」

 ほれ須佐乃よ、もっと頑張らぬか!


 須佐乃とは初崎(はつさき)宿の呼士で、見るからに豪快そうな多量の髭面と埴輪のような見た目の戦士で社会科の資料集に出てそうな姿だ。そのたくましい腕が直刀を振るうと、次から次へ湧き出てくる煙のような妖が切り刻まれ霧散していく。それでもまた湧いてくるのできりがない。


「真宵さん、私たちは池に参りましょう。

 元を絶たなければ妖が消えることは無さそうです。

 おじさま、須佐乃、しばし我慢くださいませ」


「まかせておけい!

 僕と須佐乃のコンビはそう簡単に崩れないさ」


 もちろん八家の当主たちにこんな下級妖に後れを取るものなどいないのはわかっている。それでも何が起こるかわからないからこそ筆頭として、全責任を負うものとして分家の当主への声かけを忘れないようにしているのだ。


「八早月様、なにか文書のような物が大量に浮かんでおります。

 濡れてしまって大分傷んでいるようですが、斬り捨てていきますか?」


「あれはテスト用紙のように見えます、それと教科書かもしれない。

 どこかにランドセルや学生鞄はありませんか?

 そこが扉になっている可能性は無きにしも非ずですね」


 気配を探ろうにも数が多くてどこに何があるのかわからない。それでも池に浮かんでいるプリントらしきものを回収していくと池から立ち上る妖は減っていっている。とは言っても陸地へ上げたプリントからは相変わらず妖が湧き続けているので数自体は減っていないようだ。


「おじさま、こちらへ集めました。

 湧く場所が限られれば倒すのも楽になるでしょう?

 後は大元を探すだけなのですが……」


 湧いて出てくるものをただ倒していても解決しないとわかっているため、八早月と真宵は辺りをくまなく探すのであった。


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