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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第二章 皐月(五月)

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13.五月一日 夜 織贄の儀

 今年も織贄(しょくにえ)の儀が執り行われる時がやって来た。八岐(やまた)神社近くに用意された演舞場がその舞台である。神社には葬祭等向けに用意されている神楽殿や能舞台等を持つところもあるが、八岐神社には地元の者しか訪れることがないため一般向けの立派な施設は無い。


 八岐神社には鳥居に本殿、手水舎と社務所、それに賽銭箱と両側の大蛇様像がある程度と非常に慎ましやかなものだ。八畑山の山頂にある境内からは八方に山道が伸び、八家それぞれへと繋がっていると言った塩梅(あんばい)である。


 この八畑山内と(ふもと)の農家など数軒をまとめた広い範囲の集落が八畑村であり、明治に入り制定された廃藩置県でもそのまま残され、現代になっても行政的に何の変化もない一見捨て置かれたように見える限界集落である。


 そんな田舎であるからこそ神事や言伝(ことづて)が大昔のままに伝承され、今もひそやかに執り行われている。八岐神社で行われる神事祭事はそれほど多くなく、今まさに行われようとしている五月の織贄の儀、八月八日に行われる大蛇舞祭(おろちまいまつり)、十二月八日から数日間にわたって行われる供養祭の三つだけである。


 その他にあえて付け足すなら正月には初詣用に社家(しゃけ)である八畑家が甘酒を振舞うくらいである。もちろん地元の人に頼まれればお祓いや安全祈願等も行っているが、現在の宮司(ぐうじ)である八畑家の当主は、自分にはなんの力もないのにいかにも何かのご利益があるように神事を執り行い金を貰うことを嫌っているらしい。


 そんなやる気の無い宮司でも三大神事には力を入れ取り組むわけだが、そう思わせるのは、八岐神社を神の住まう(やしろ)足らしめている、八畑山に埋まる神器である天叢雲剣あまのむらくものつるぎと、その力を八つに分けて継承している八家の存在に他ならない。


 もちろんそれは、八家が人知れず近隣の広い範囲を(あやかし)より守っていることが空想や幻想、おとぎ話や偽りの伝承だとか白昼夢でもなく本物の神通力を用いて執り行われていることを知っているからである。そもそも八畑家には八家の血が紡がれているのだから疑うべくもないのだが。


 さて、五月一日の夜、深夜と言うのはいささか早い二十時ごろ、今年最初の織贄が行われようとしていた。現段階で次期当主となるべく八岐贄(やまたにえ)となっている者は四家に四名だ。つまりその他四家の当主にはまだ子がいないか、まだ八歳に満たないと言うことである。


 儀式の対象は、現当主の跡を継ぐことは決まっているものの未だその域に達していない八岐贄たちであり、織贄の儀は自らの力を示す晴れ舞台と言うことである。織贄の儀では呼士(よびし)同士が戦うのだが、当主ではない八岐贄たちはまだ未熟であるから神器である神刃(かみやいば)を継承しておらず自力で呼士を(つか)えることができない。


 そのため織贄の儀が行われるこの時に限り、当主の力を借りて自らの呼士を顕現(けんげん)する。その呼士と良い関係性が築けているのか、八岐贄となってから鍛錬を重ねてきた成果は出ているのか、当主を継ぐにふさわしい心技を供えたのか等が現当主たちによって判断される。


 ただし、たとえ能力が不足していても、現当主が高齢であったり病で役目を続けることが困難だとか、急死してしまった等の事情がある場合には八岐贄へ家督が譲られることになる。しかしその場合は不相応の身分を任されることになるため、通常は(・・・)相当に厳しい道が待っている。


「それでは始めましょう。

 巫女の皆さん、かがり火をお願いします」


 幼さの残る声が、森の中の静かな舞台へ響く。ここは八岐神社の境内から少しだけ南へ進んだ所にある演舞場、大昔は共用のたたら場として使われていた場所らしい。現在は特に何に利用されていることもなく、こうして織贄の儀で行われる呼士同士の仕合(しあい)に使うくらいだ。


「今年は、いいえ、今年も同じ顔ぶれですが、くれぐれも慢心油断無きように。

 では東方(ひがしかた)、六田家女贄(めにえ)六田楓(むた かえで)! 前へ!

 次、西方(にしかた)、四宮家男贄(おにえ)四宮忠臣(しのみや ただおみ)! 前へ!」


 期せずして東西両側とも学園の先輩であったが、呼び出しをしている八早月にとってはそれが誰かは問題ではなく八岐贄かどうかだけである。とは言っても、全員の顔と名前くらいは把握していた。


 だが呼び出しを受けた楓の心中は穏やかでなく、先日八早月へ暴言を吐いて絡んでしまったことを悔いていた。それはともかく、あの日を思い返すと学園にいるときと儀式中の八早月では雰囲気がまったく異なり本当に同じ人物なのか疑いたくなっていた。


 片や直臣も同じように考え事をしていたが、こちらは本家の当主をきちんと把握していたため無礼を働かずに済んでよかったと安堵していた。しかもなぜか書道部へ入ることも諦めてくれたようだし、学園内ではこれからも可能な限り関わらず過ごせるようにと、八岐大蛇様へ祈るのだった。


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