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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第一章 卯月(四月)

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11.四月二十六日 日中 ドロシーの憂鬱

 ドロシーは悩んでいた。ゴールデンウィークを間近に控え浮かれている生徒たち、それはまだいい。だが浮かれた教師にどう接すればいいのだろう。ようやく日本での生活にも慣れて来たところだし、せっかく決まった職場だって失いたくない。あまり無碍(むげ)にしてはいけないとは思うが、勘違いさせるのもまずいだろう。


 彼女はそれほど日本と八畑村を愛しており、もうイングランドへ帰ることは微塵も考えてなかった。それと言うのもドロシーが両親に連れられ来日してからこれまで様々な苦労があり、それが今ようやく結実しようとしているからだ。


 当主となる前に両親に連れられて日本へ移住してきたのは十三年前、ドロシーがまだ十四歳のころだ。八畑村を棄てて渡英した日本人の鍛冶師がセブランス家の始祖だと言う古文書が発見されたのはまったくの偶然だったが、残された先祖の書に感銘を受けたドロシーの父が強引に移住を決めてしまったらしい。


 来日間もない頃は八畑村に住むことが許されず、親子で(ふもと)の街に暮らし、父親が英語講師等をして生計を立てていた。両親は慣れない土地で苦労しながら生活基盤を固め、八畑村へ足しげく通いながら八家当主たちへ頭を下げて回った。


 八家と言っても、七草家が脱村(だっそん)し系譜が一つ失われたまま千五百年以上経っていること、セブランス家が八畑村へ移り住みこれから長きに渡りこの地で暮らす覚悟があること、そしてもちろんドロシーの両親の誠意が伝わったことで七草家の復興が認められることとなった。


 かと言ってセブランス家の人たちが即八家の一員になれるわけではない。本来であれば八歳で大蛇舞祭おろちまいまつりの儀式を受け、(にえ)となって神通力を授かる必要がある。しかしその時すでに十六歳になっていたドロシーが儀式を受け(かんなぎ)である女贄(めにえ)になれるかどうかは未知数だったのだが、これをあっさりと成業し無事に七草家当主と認められたのだ。


 こうして脱村した当時の当主、七草炎太郎(ななくさ えんたろう)が犯した過ちを挽回する機会が与えられ、セブランス家は正式に八家の一員である七草を名乗れることとなった。しかしそれからは他の当主に追いつくために修練へ費やす時間がドロシー十代の青春を奪っていった。


 ちなみに炎太郎が村を棄て渡英する原因となったのは、金色の髪と白く透き通った肌を持った天女に出会い駆け落ちしたためと伝わっている。炎太郎は一目で恋に落ち、天女を妻として迎えようと村へ連れ帰った。


 しかし人かどうかもわからないその姿を見て村人たちは恐れ、天女との婚姻は他の八家当主からも認められなかった。そのため二人は村を棄てて英国へと渡りセブランス家を興した、とドロシーの父が発見した古文書に記されていた。


 これが史実だとすると、日本に欧州人が始めてやって来たのが十六世紀だという記録よりも千年ほど早い。しかもその後炎太郎はグレートブリテン島へと渡っているのだが、大航海時代より千年も早い七王国(しちおうこく)時代に日本欧州間の移動を成したことになる。


 地図も方位磁針も無くまともな船も無かった時代にそんなことができたのかはなはだ疑問だが、村に残された記録でも七草家当主が失踪した時期に関しては古文書との整合性が取れている。海路にせよ陸路にせよ時代を考えると驚異的な行動力であるのは間違いない。


 もしかすると、炎太郎たちは村を出てから日本国内に隠れ住み、数百年後の子孫が渡英したことも考えられる。それでも、そもそも炎太郎が出会った白人と思われる女性がどうやって日本へたどり着いたのか、なぜ誰からも見つからずに山奥に住んでいた炎太郎と出会えたのかなど不可解な点が多い。


 だが全てを都合よくこじつけてしまえばそれこそなんでも有りだ。例えば、炎太郎の前に現れた白人女性は海外で活動している八家の巫同様の存在であり、何らかのアクシデントで似た力を持つ者のところへ現れてしまったという説や、何らかの理由で漂着した女性を炎太郎がひと気の少ない早朝などの見回り中に見つけ、呼士の力を使って空を飛び海を渡った等も考えられる。


 そんな話をしているうちに、ドロシーの両親と当時の八家当主たちは打ち解けたのだった。超常の力を用いて地域を守り暮らしている八家の面々にとっては、突拍子の無い話に抵抗感はない。つまり似た者同士と言うわけだ。


 炎太郎の記述から始まる、七草家当主が代々残してきた古文書には、他にもおとぎ話のような不思議な出来事が記されており、その記録の中で最たるものが聖剣エクスカリバーについてだろう。そもそもアーサー王自体が実在の人物かどうか疑わしいとされているのだから、彼が登場する話が平凡で当たり前の物語であるはずがない。


 七草家の古文書によれば、その英雄王の気を引こうと声をかけたのが通称『湖の乙女』であり、炎太郎たちの孫であるヴィヴィアン・ナナクサだ。その後、聖剣を使って力になると提案し、炎太郎は七草家が継承してきた神刃(かみやいば)である撫斬剣(なできりのけん)を用いてアーサー王に手を貸した。


 炎太郎が呼びだした呼士は当然誰にも見えないため、アーサーが適当に剣を振り回すだけで何百何千何万と言う軍勢が地に倒れていったと言う。炎太郎が戦を手伝ったのは孫の恋を成就させてあげたい祖父心かららしいが、結局アーサーは別の女性と結婚しヴィヴィアンの想いは霧散した。


 そんな七草家の古文書の信憑性はともかく、女贄になれたドロシーには間違いなく七草の血が流れており、現在も日々鍛錬を欠かしていない。当主を継承して十年、序列が低く次世代向けの儀式である織贄(しょくにえ)の儀にも参加できないため神通力は弱いが、ようやく呼士の力をそれなりに引き出し八家の務めに役立てるようになってきた。


 あとは鍛冶師を目指す男性を婿に迎え子を儲け七草家のさらなる発展を、それに八家や八畑村、八岐(やまた)神社に貢献する未来を目指している。それだけに同僚の教員と仲良くなっても意味がなく、ゴールデンウィークを一緒に過ごしたいなどと言う誘いはドロシーの夢を邪魔する戯言(ざれごと)にしか思えなかった。


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