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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第五章 葉月(八月)

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101.八月十八日 早朝 焦燥感

 今日もまた三人は被害者のようなものだった。いくら山奥が夏でも涼しかろうとこれだけ走りつづければ汗は止まらない。


 楓はここで倒れたら置いていかれて行き倒れてしまうのではないかと焦り、直臣はまだこれが準備運動段階であることを忘れたかった。さすがに大人であるドロシーだけは八早月にきっちりついていっているが、それももう時間の問題に見える。


「さああと少しですよ、大岩のところから全力疾走しましょう。

 私が帰り着いてから五分の休憩ですからね」


「は、はひぃ……」


 そう言いってまもなく、八早月は山道の脇にある大岩を過ぎた瞬間に全速力で走り去っていった。取り残された三人のうち、ドロシーは何とか走っている格好になっているが、楓と直臣は心が折れたのか、今にも力尽きそうによたよたと歩いている。


「楓様、直臣様、主が無理をさせて申し訳ございません。

 実は昨晩、寺子屋の宿題がだいぶ残っているのを思い出したようでして……」


「そ、それで、機嫌が、はっ、はっ、わる、いのね……

 しゅ、宿題は、ウチもたっ、たっぷり、残って、るんだった……」


「ぼ、僕は、ほぼっ全部、終わってます……

 こういうのはっ、計画的に、進めない、っと……」


 へこたれそうな二人に同乗して、真宵は背中を支え後ろから押してあげたのだが、そのことはもちろん八早月には知られている。だが流石は当主筆頭、そんなことを指摘して止めさせるほど野暮ではないのだ。とは言っても八つ当たりをする程度にはまだ子供なのも確かである。


 山を走って真っ先に家まで帰ってきた八早月は、五分どころか一息入れるとすぐに素振りを始めていた。とにかく早く朝の鍛錬を終わらせて宿題に取り掛からなければならないのだ。


 夏休みに入り、確かに神事やお役目もあって頭を悩ませることも多かったが、遊びほうけていたのも事実、どんな理由であろうと決められたことを終えられなかったなど許されない。


 中学に上がった八早月は、英語に苦手意識が強く勉強自体が好きではなくなっていた。数学も実はそれほど得意でないことが判明し、まともな成績なのは国語と社会くらいなものだった。


 これ以上悪い成績を取るわけにはいかないと、せめて宿題はきっちりやるつもりだったのに、机に向かうと気が散ってちいとも進んでいないのだ。なんとしても今週中に課題を片付けなければ、海で遊んでいる場合ではなくなってしまう。


「それでは休憩終わり! 打ち込み始めえっ!

 来週は私が不在のためお休みというか自主練にしますから今日は頑張ってください!」


「てやああ!」

「きええええ!」

「Yahaa!」


 朗報の効果もあってか、三者三様で打ち込みを始めるとさすがの迫力だ。剣術には疎い(みくず)はそう感じながら興味深く眺めていた。正面には真宵へ懸命に打ちこんでいる八早月の姿がある。この中では一番背丈が低く明らかに子供であるのに、剣筋はもっとも鋭く力強い。それくらいは藻でも一目でわかるほどの違いがあった。


 今週からは庭に打ち込んだ丸太へと打ち込んでいく練習を試しているのだが、どうやら三人ともきちんとこなせているようだ。これなら八早月が留守でも鍛錬可能かもしれない。


 これは八早月が学園の図書館で見つけた書籍に載っていた他流派の剣術練習方法である。木刀替わりの太い枝で、地面へ立てた丸太を削ぎ落すほど打ち込み続けると言うもので、古流剣術らしくなんとも荒々しい練習方法だ。


 楓用の大木鎚も出来上がり、直臣の木鉾にドロシーの木剣と、それぞれが自分流の鍛錬に取り組むことが出来ているのを見ると満足感にあふれてくる。決まった型の無い実戦派武術であるからこそ、流派を問わず良さそうなものを取り入れていくべきだろうと先人たちも八早月も考えている。


 練習後にそんな話をしていたら、ふとドロシーが呟いた。


「ソウデスね、異文化を取り込むコトデ日本も発展したと聞きマス。

 だからこれだけ英語を熱心に学んでイルデノしょうネ。

 和洋折衷温故知新でゴザマスよ、筆頭様」


 話している言葉はめちゃくちゃな気もするが、言わんとすることは至極まともであり、今の八早月には堪える内容だった。


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