98.八月十二日 午後 意外なる女子会
予想もしていなかった出来事にバタバタしてしまったが、これでしばらく平穏な日常となるならいいことである。なんとかという団体も、これで宗教法人を目指すことは困難となっただろう。
昼食を取り終わりやることも終えると眠くなってくるのが世の常である。八早月は少しだけ昼寝でもしようと自室へ入り布団を敷いた。
「あのぅ、八早月様? お話をお忘れではないでしょうか?
私、先ほどからずっとお待ち申しているのですが……」
「ああ、藻様、申し訳ありません、すっかり忘れておりました。
それでなんのお話だったかしら、真宵さんの新たなもう力の話は済みましたしね」
「その前に一つ、人の身に封じられた私はもはや神格ではありません。
八早月様にへりくだられますと却って落ち着きませんので、どうぞ普通にお話を。
では本題ですが、綾乃殿の子狐と私の心を繋げても良いでしょうか?
さすれば互いに意思疎通ができますゆえ、色々と便利でしょう?
「ですが相手は狐、会話することなど不可能ではありませんか?
それとも藻さんならお話しできるのかしら?
別に害はないでしょうから構いませんよ。
でも私と綾乃さんが子狐を通じて連絡を取り合うのは困難でしょうね」
「それならばあの狐子を話せるようにしてしまえば良いのでは?
もしそれでは不気味だとか不都合あるなら人型にするもよし」
「そんなことができるのですか?
ですがこういうことは本人に相談し希望を聞いた方がよろしいでしょう」
「左様でございますね、今仕えている狐子に愛着があるかもしれませんし。
しかし過去与えた狐の美男子は好評でございましたよ?」
「今の子狐と交換ですか!? それはおそらく断るでしょうね。
あの子は綾乃さんが産まれた時に先祖から受け継いだ子ではありませんか」
「ですが半分は呪いのようなものだったと伺いました。
実際はわかりかねますが、無理強いはしませんのでご安心くださいませ」
「本当に頼みますよ? 軽はずみな行動は絶対に取らないで下さいね。
他に用件はありますか? なければ――
ああそうだ、先日申し上げた藻さんを祀る件を進めていませんでした。
忘れないようにしないといけませんね、でも今は……」
全てを言い終わらないうちに八早月は寝息を立て始めてしまった。それを見た真宵は姿勢を正して傍らに座り寝顔を眺めている。それを見て藻まで隣に座りこんだ。常世の住人である二人にとっては睡眠自体が不要なので珍しい光景ではあるのだが、今見つめているのはまた別の理由である。
「藻殿、くれぐれも八早月様を困らせるようなこと無きよう願います。
私の力が上がり主へより多くの貢献が成せるようになったことは感謝しておりますが、それはそれ、これはこれでございますから」
「もちろん承知しておりますよ。
それよりこの寝顔よ、ほんに愛いですなぁ。
真宵殿は幼きころよりこの寝顔を眺めておったのだろう?
まことに羨ましきこと、私も幼子を抱きとうございました」
「そなた、まさか生前の記憶があるのですか?」
「まさかまさか、祀られ神格を得た段階で新たな人格を持つのですからね。
しかし伝承では私が宮中へ入る前、まだ人であった頃に恋仲がいたと聞きます。
そう言ったことを聞き及ぶと、ちと別の道を歩んでみたかったなと思うのですよ」
「左様でございましたか、神もなかなか楽ではありませんね。
我らが八岐大蛇様より賜る肉体と精神は、主の理想や願望が色濃く出るとか。
それを知っているはずの八早月様からお褒めいただくと何ともこそばゆいのです」
「うふふ、仲良きこと、まっこと微笑ましく羨ましい。
私も早く主様に信頼されたく存じます」
八早月が寝入った後に、まさか配下の者同士がこんな風に仲良く会話を楽しんでいるとは知る由もない。そして真宵は、八早月が考えているよりも藻はずっと信用できるし、こうなったことを喜び感謝しているのだと感じていた。




