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0-1.三月十六日 午前 卒業式

 今日でこの校舎ともお別れだと思うと多少は寂しい気持ちになる。同い年の子が同じ学校にいないため、自分が大人びているのかどうか判断が出来ないまま、八早月(やよい)は小学校を卒業することになった。


 八早月が生まれ育ったこの八畑村は、人口およそ九十人程度の小さな集落である。そのほとんどは遠縁の縁者であり、お互いに知らない人は誰もいないのではないかと常々考えている。


 今年の卒業生は八早月だけなのだが、去年は卒業生無し今年は新入生もゼロで入学式も無かったので二年ぶりの式典と言うことになる。ちなみに来年は六年生がいないので卒業式は無いはずだが、新一年生が入ってくるので入学式はやるだろうし人数も今年と変わらない。


「お母さま、卒業式と言っても特にやることもありませんね。

 宮司さんが教科書の代わりに卒業証書を読んでくれたくらいしか違いがないわ」


「あらあら、八早月ちゃんったら身もふたもないこと言って。

 それに学校の時には宮司さんではなく先生と呼ばないといけませんよ?

 式が終わったら奥様がけんちんをご馳走してくださるそうだから楽しみね」


「それは先生の奥様? それとも宮司さんの奥様かしら?

 場所は校舎? それとも八畑家の大広間ですか?」


「あらあら、全部同じ方、同じ場所じゃないかしら?

 うふふ、まあそれはどちらでもいいわね。

 最後にお写真撮りましょう、ほうらみんな入ってー」


「これもお正月に撮ったものとほとんど同じですね。

 分校の生徒は従妹ばかりで変わり映えもありません」


「まあまあ、それももっともかもしれないわね。

 でもママは八早月ちゃんの成長がよくわかるから残しておきたいのよ。

 それに今日は素敵なお洋服を着ているんですからね」


「そうまで言われるなら仕方ありません。

 でもお母さま? 式はもう終わったんだし私は先に帰っていいかしら?

 あとはどうせ皆さんで延々とお話でしょ?」


「そうねぇ、お出かけするならおうちで着替えてからにするのよ?

 パパはきっとお留守番で寂しがってるでしょうね。

 置いてきぼりはかわいそうだっかもしれないわ」


「それなら遺影を持ってきてあげればよかったですね。

 まったく……」


 母にそう言われて八早月は、家で待っているはずの父の幽霊を想像して顔をしかめた。それに一から十まで言われなくても着替えくらいするに決まっている。なんと言ってももう中学生になるのだから、と、その扱いに不満げだった。


 大体遊びに行くわけではなく、もう仕事(・・)が入って来そうな気配である。このまま歩いていては着替えに戻れなくなってしまいそうなので、八早月は急ぐために自らの中に眠る異能の存在である呼士(よびし)に来てもらう事にした。


真宵(まよい)さん、申し訳ないけど乗せて行ってもらいますね。

 北西に大き目の気配が育ちつつあるのです。

 先に宿(やどり)おじさまたちが行っていると思うのですが心配です」


「それはことですね、八早月様急ぎましょう。

 まずはご自宅へということですね?」


「はい、さすがに着替えてからでないと動きにくくて仕方ありませんからね。

 そう言えば真宵さんは洋装に着替えることはないのですか?

 きっとよく似合うと思うのですけど」


「私たちは衣服を着ているわけではありませんから難しいでしょう。

 汚れることも破れることもなく便利ですが、多少つまらなさもございますね」


「それは残念です、きっとお似合いですよ。

 真宵さんはとても麗しくステキですからね。

 凛としてという言葉は、きっと真宵さんのためにあるのでしょう!」


「八早月様は世辞が上手なので言われる側は恥ずかしい限りです。

 それよりも早く向かいませんと! さ、急ぎましょう」


 呼士でも照れると頬が赤くなるのか、なんて思いながら八早月が真宵の手を握ると、二人は(そら)へ向かって走りだした。すると普通に歩くよりも十倍くらいは早くあっという間に帰り着き、外で遊ぶような普段着へと手早く着替えて再び表へ出た。

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