異世界ダーウィン賞
タイトルにダーウィン賞を入れていますが、ダーウィン賞の受賞条件を守って作る気はありません。
第一話 兄弟と大蛇
とある異世界の小さな村に、村で一番強いと豪語している兄弟がいた。二人は顔がそっくりで、筋骨隆々ないかつい男たちだった。
「俺は強い!」
「オレも強い!」
「「俺たちは強い! がーはっはっはっはっは!」」
そう言っては毎日村を徘徊し、村人たちに威張り散らしていた。その中でも特に、村一番の美女、マーガレットが住む家の玄関前で「俺たちは強い!」を連呼する。そしてマーガレットが出て来ると兄弟は、鍛え上げられた筋肉をさらけ出し、マーガレットに愛の告白をするのだ。
「この筋肉が、きっとあなたを幸せにするだろう!」
「この筋肉が、きっとあなたを守るだろう!」
「「がーはっはっはっはっは!」」
マーガレットはそれを毎日玄関前で見せられ、いつも引きつった笑みをするのだった。一通り兄弟はマーガレットに告白を済ませると、近くの山に入って筋肉を鍛えに行く。夜になると山を下り、いつも通っている酒場に行って酒を飲みながら、今日のマーガレットの笑顔はどうだったかを語り合うのだ。
「いやぁ、今日のマーガレットの笑顔も素敵だったなぁ弟よ!」
「そうとも兄よ! あのマーガレットは毎日オレたちに最高の笑顔を向けてくれる。きっとあれは、オレたちに好意があるに違いない!」
「そうとも弟よ! 毎日愛の告白をしているのだ! いつかきっと、この返事はイエスと答えてくれるだろう!」
「「がーはっはっはっはっは!」」
そうして、兄弟の一日は終わるのだ。ちなみに二人とも三〇を越えているが、まだ童貞である。
次の日、兄弟はまたいつものようにマーガレットの家へ向かっていた。頭の中では、今日のかっこいい愛の告白台詞を考えていた。
「俺は強い!」
「オレも強い!」
「「俺たちは強い! がーはっはっはっはっは!」」
向かう途中は必ずこれを連呼し、村人に威張り散らす。そしてマーガレットの家の近くに着くと、何故か村人が大勢集まっていた。これには兄弟も何事かと思い、村人の老人を捕まえて話を聞いた。
「じ、実はこの村に、勇者ランスロットが悪しきドラゴンを倒して帰って来たんじゃ。それで今、ランスロットがマーガレットに告白しとるんじゃよ」
それを聞いた途端、兄弟は吹き出し、大笑いした。ランスロットとは、この村から生まれた世界を救う勇者である。
「ランスロットがマーガレットに? がはははははは、あのひょろひょろがマーガレットにか? がははははははは!」
「がははははははは、ありえないぞじじい。あんな弱虫にそんな度胸があるわけないだろうがははははははは!」
そう言って兄弟は老人を道の端に放り投げると、マーガレットの家の前にいる群衆を乱暴にどかしていく。そしてマーガレットの家の前まで来ると、いつもの台詞を口にする。
「俺は強い!」
「オレも……」
だが、弟が台詞を最後まで言わない。
「何をしている弟よ、早く台詞を言わないか!」
そう兄が急かすが、弟はマーガレットの家の方を向いたまま、目と口を大きく開けて固まっていた。何をそんなに驚いているのかと、兄も弟と同じ場所に視線をやると、兄も目と口を大きく開けて固まる。兄弟が見たのは、ランスロットがマーガレットの左手の薬指に、指輪をはめていたのだ。マーガレットはランスロットに指輪をはめられ、うれし涙を流していた。
「マーガレット、僕は君との約束を忘れた日は一度もなかった。悪しきドラゴンと倒して平和になった世界で、ずっと君の傍にいたい。僕と、結婚してくれますか?」
「……はい!」
それを見た兄弟は、あまりのことで脳が追い付かず戸惑っていた。しかしランスロットがマーガレットに誓いのキスをして、二人はようやく理解できた。だが理解したころには遅く、兄弟はランスロットにマーガレットを寝取られたと思い、わんわん泣きながら山へ走って行った。
「わーん、弟よ、なぜマーガレットはランスロットを選んだのだ! わーん……」
「わーん、その通りだ兄よ、マーガレットはなぜオレたちを選ばなかったのだ! わーん……」
二人は一晩中山の中で泣いた後、いつもの酒場に行ってやけ酒をしていた。
「大体、ランスロットのどこが良くてマーガレットは告白を受け入れたんだ? げぷっ」
「絶対にオレたちの方が強い。あんなひょろひょろのどこに……。まさか、オレたちはいつもマーガレットに筋肉ばかりを見せつけているだけで、実力を見せていなかったから信用されなかったのか⁉」
「なんだと弟よ! ならば俺たちの実力を見せつけて、俺たちが強いことを見せつけなくては!」
兄弟は強い敵を考えだす。そして、安直なことを兄が思いついた。
「やはりここらで一番強いのは、山の主だろう。山の主を倒して首を持っていけば、きっとマーガレットも俺たちに惚れ直すぞ!」
「さすがは兄、そうと決まればすぐに行こう!」
弟が火のついた松明を一本持ち、暗い山へ兄弟二人だけで入って行った。山に入って数十分ほど経ち、兄弟は巨大な生物の気配を感じる。殺意のこもった視線に二人は身震いをし、目を合わせた。
「弟よ」
「あぁ、兄よ」
兄弟は、背後から勢いをつけて迫って来た巨大な生物に、二人同時に拳で殴りかかる。だがその拳が当たることはなく、巨大生物は軽い身のこなしでかわす。そして弟が持っていた松明を、巨大生物のいる方へと向ける。照らされた巨大生物の身体は、とても長く太い。まだら模様が特徴的で、くねくねと身体をしならせる。顔は爬虫類の特徴的な三角の大蛇だ。そう、山の主は、夜行性の巨大なヘビだった。その大きさは、三〇メートルを超えるほどの巨体だ。初めて見る大蛇に、兄弟は鳥肌が立つ。
「弟よ、俺たちは、今からこの大蛇を倒すんだな」
「そうだな兄よ。大蛇を倒して、オレたちはマーガレットに求婚するんだ」
そう言って兄弟は、いつもの台詞を叫んだ。
「俺は強い!」
「オレも強い!」
「「俺たちは強い!」」
兄弟は、襲い掛かる大蛇に怯むことなく立ち向かう。いつもマーガレットに魅せるためだけに鍛えている魅せ筋ではなく、力で全てをねじ伏せるための筋肉であることの証明のために、兄弟は全身全霊で戦った。
三時間後。
「俺は、ぜぇ、ぜぇ……強い!」
「オレも、ぜぇ、ぜぇ……強い!」
「「俺たちは、ぜぇ、ぜぇ……強い! がはははは――ぜぇ、ぜぇ」」
ついに兄弟は、山の主の大蛇を倒したのだった。大蛇の頭で、いつもの台詞を言う二人は、息を切らしてかなり憔悴している。
「弟よ、これでマーガレットも、俺たちのことを惚れ直すな」
「そうだな兄よ。この大蛇の首を持っていけば、ランスロットのようなひょろひょろなど、目にも入らんだろう」
兄弟は大きな高笑いをし、これからのことに思いをはせていた。そしてマーガレットに自慢するべく兄弟は、大蛇の頭をもぎ取り、また高笑いをした。だが兄は、残った大蛇の胴体を見て、よだれを垂らした。
「弟よ、腹が減っていないか。どうせマーガレットに見せるのは頭だけだ。なら胴体は食っても構わんだろう」
「流石は兄だ。余った胴体は丸焼きにして食おう」
そうして兄弟は焚火を用意し、巨大な胴体を大量の木材で宙に浮かせる。その下に、胴体を這うように焚火を起こす。よく火が通ったのを見計らい、兄弟は大蛇の肉を貪り食う。獣のごとく、目の前の肉を必死に食った。一時間ほど経って、兄弟は大蛇の胴体を全て食べきったのだ。大蛇のあまりの大きさに、兄弟の腹は膨らみに膨らんで、風船のようになっている。
「弟よ、流石にもう食えまい」
「あぁ兄よ。流石にこれ以上は限界だ」
兄弟は腹がいっぱいになったことで、山の中だというのに寝てしまった。兄弟の夢の中では、大蛇を倒したことでマーガレットから頬にキスされる。そして、夢の中でキスされて相当嬉しかったのか、現実世界で高笑いを始める。
「「がーはっはっはっはっはっはっは!」」
兄弟は笑いを抑えることもできず、心行くままに笑い続けた。
「「がーはっはっはっはっはっはっはっはっは――っ!」」
急に笑いが止まったかと思うと、兄弟は同時に身体を痙攣させる。そして兄弟はそのまま笑い過ぎて呼吸困難になってしまう。そこに、大蛇の肉を食べ過ぎたことによる消化不良が重なり、死亡した。
こうして彼ら兄弟の人生は、マーガレットに自慢したいがために大蛇を倒したのはいいものの、余った胴体を全て食べて消化不良を起こしてしまう。そこに追い打ちをかけるように、将来のマーガレットとの楽しい人生を妄想して笑いを抑えられずに呼吸困難となり、あっけなく死んだのだった。
第二話 完璧な防御魔法
とある異世界にある魔法で文明が発達した世界のある街に、二人の老いた魔法使いがいた。二人は家の地下にある研究室にこもり、防御魔法の研究を行っていた。そしてついに、二人が生涯を掛けて研究してきた防御魔法が完成したのだった。研究室は光に包まれ、その光は収束し、瓶の中に収まる。
「ついに、ついに完成したぞー!」
そう言って、白衣を纏った髭の長い老人が泣きながらガッツポーズをする。その隣で頷きながら涙を流す白衣を纏った坊主頭の老人がいる。
「やっと、やっと完成したのだな。うぅ、うぅ……」
この魔法の研究に人生を費やしてきた二人の老人は、生涯で最高の魔法を完成させたのだった。
「この瓶の中にある光を身体に振りかければ、全ての攻撃魔法から身を守ることが出来る。わしらのやってきたことは無駄ではなかったぞー!」
「うぅ、うぅ……」
だが髭の老人が、本当に魔法を防げるのかを試してみようと言い出した。坊主頭の老人に、瓶の中の光を上から振りかける。テカテカに光っていた頭頂部が、光を振りかけたことによって更にテカりが増し、髭の老人は目を細めた。光の振りかけを終えると、髭の老人は五メートルほど坊主頭の老人と距離をとり、髭の老人が坊主頭の老人の方に右腕を向けて手のひらを広げる。そして、魔法を詠唱し始めた。
「我欲するは大地をも溶かす灼熱の炎なり。我の願いを受け入れるなら、我が純潔なる身体に宿り、力を与えたまえ。我が名は髭の長い老人なりぃ!」
詠唱と共に、右手に魔法文字が刻まれたよく分からい円状の魔法陣が現れる。その現れた魔法陣から、灼熱の炎が火炎放射のようになって、坊主頭の老人を襲った。火炎放射の魔法の威力は凄まじく、地下室の石畳の壁を容易く溶かし爆発する。そんな魔法を人間が全身で浴びればひとたまりもない。だが、坊主頭の老人は無傷だった。あの光を振りかけたことにより、坊主頭の老人は灼熱の炎から身を守ることが出来たのだ。だが、着ていた服は全て焼けて灰になり、坊主頭の老人はすっぽんぽんになってしまう。それでも二人の老人は、防御魔法が完璧に坊主頭の老人を炎から守ったことによる実験の成功に大はしゃぎしていた。
すると地上から、どかどかと勢いよく階段を下りて来る足音が地下室に響き渡る。その音は徐々に近づき、地下室の扉が勢いよく開いた。扉を勢いよく開いたのは、鬼の形相をしたいかついおばさん、アリーだった。彼女はこの地下室を含めた家のオーナーで、すぐ隣の家に住んでおり、この家を監視していた。そんな彼女が二人に向けて、開口一番に言い放つ。
「何やってんだくそじじいどもぉおおおおおおお!」
その言葉を聞いた二人の顔からは笑みが消え、アリーの前で正座をする。彼女が地下室に来るときというのは、いつもこの二人の老人が何かをやらかしたときである。アリーは鬼の形相で腕を組み、仁王立ちをして二人に話しかける。
「何で私が来たか、分かるか?」
「「……」」
二人とも押し黙り、彼女が話すのを待つ。
「あんたらが何をしていたかは知らないけど、あんたらのせいでこの家の一部と、家の前を通ってる道路が滅茶苦茶になってるんだよ!」
アリーが言うには、先ほど髭の老人が実験で使っていた火炎放射の魔法の威力が強大すぎて、爆発が思った以上に激しかったらしく、家の前を通る舗装道路に大きな穴が開くほどだったそうだ。それもそのはず、髭の老人は炎魔法でも最高位の魔法を使用したのだ。地面に穴が開くほどの爆発を持っていてもおかしくはないだろう。アリーの怒りは増すばかりで、二人に家賃を滞納するごく潰しと罵ったりもしていた。
「もう我慢の限界だよ。一週間の時間をやるから、その間に荷物をまとめて出で行きな!」
アリーがその言葉を言い放つと、二人に背を向けて去っていく。
「ま、待ってくれ。ここ以上に魔法の研究を快適に出来る場所はそうそうないんじゃ。だから頼む、追い出すのだけは――」
「うるさい!」
髭の老人が乞うのを一蹴し、アリーは扉を壊すほどの勢いで閉めた。
「そんなぁ」
アリーのあまりの仕打ちに、坊主頭の老人は涙を浮かべる。だが、髭の老人は何かを決意したような顔をした。
「こうなったら仕方がない。わしらは何とかして金を稼ごう」
髭の老人は坊主頭の老人にそう言う。それに対して坊主頭の老人は、どうやって金を稼ぐのかを聞く。
「簡単じゃ。先ほど完成した防御魔法の光を売るんじゃよ。この光の防御魔法は、振りかけるだけで、全ての攻撃魔法を防げるんじゃ。バカ売れ間違いなしじゃ!」
「流石じゃなぁ、早速売り出すか」
そうして、早速路上で売り出しを始めた。一つの値段は日本円でおよそ一九八万円程度する。いくらすべての魔法攻撃を防げるとはいえ、あまりの高い値段から、詐欺商品という噂が街中に広がり始めていた。
二人は、あまりにも光の防御魔法が売れないため、どうすれば売れるのかを考えていた。そしてある一つの考えが、髭の老人の頭の中で思いついたのだ。髭の老人は坊主頭の老人にその考えを話すと快く受け入れられ、すぐにやることが決まった。
そうして二人は、とある遺跡に来ていた。そこはドラゴンが住み着いているとされる遺跡で、ほとんどの人間はドラゴンを恐れて近寄らない場所だった。そんな場所に二人は立ち入り何をするのかというと、光の防御魔法がドラゴンの吐く炎から身を守ることで、この光の防御魔法の実用性を示そうと言う考えなのだ。ドラゴンの吐く炎は、この世界で最も熱く、全てを焼き尽くすほどと言われている。そんな炎を耐えるほどの防御魔法であれば、必ず良い宣伝文句になるだろうという髭の老人の魂胆だった。
早速二人が遺跡に近づくと、空から深紅のドラゴンが都合よく現れた。髭の老人は坊主頭の老人に光の防御魔法を振りかけて準備を済ませると、髭の老人はそれを離れた場所に移動して見守る。
「さぁこい!」
坊主頭の老人は意気揚々と目の前のドラゴンに向かって言う。身体は大の字にし、ドラゴンの炎を待つ。そしてドラゴンは、大きく首を反らしたかと思うと、勢いよく坊主頭の老人に向かって頭を振る。この動作は、ドラゴンが炎を吐くときに行う行動で、獲物を前にしたときによく行う行動だ。そしてドラゴンは、坊主頭の老人に向かって思いっきり炎を吐いた。それは辺り一面が熱気で火事になるほどの熱さで、それを直にくらっている坊主頭の老人は、生きているのか不安になる。ドラゴンの炎が止み、髭の老人が坊主頭の老人のいた場所を見ると、そこにはしっかりと坊主頭の老人が立っていた。だが服は灰になり、坊主頭の老人はすっぽんぽんの状態だ。
「やったぞ、大成功じゃぁああ!」
ドラゴンの炎すらも防ぎ切った喜びで、髭の老人が坊主頭の老人に走って近づいていくと、ドラゴンが坊主頭の老人の上半身を上からガブっと食った。それを見た髭の老人はあまりの衝撃的な出来事に声も出ず、腰が抜けたのか尻もちをついた。そして坊主頭の老人はそのまま、ドラゴンにバクバクと食われてしまう。老人の身体は肉が少なく、すぐに骨を砕くバリボリといった音が聞こえる。それを間近で見た髭の老人は、あまりのショックで心臓が止まりそのまま死んだのだった。
最強の防御魔法を作るほどの天才二人でも、肉食の生き物自分たちが食われるという発想に思いいたらなかったために死んでしまった。
第三話 絶対に押すなよ
とある異世界の天界に、二人の男子高校生がいた。一人は学ランで、もう一人はブレザーを着ている。彼らは運悪く同じ日に交通事故に遭ってしまい、魂が天界にたどり着いたのだ。二人は内心であの世であることを確信していた。それは必然であり、摂理であるからに他ならない。そんな二人の目の前にとても綺麗な女性が現れた。金髪に透き通るような白い肌をした、まるで女神のような存在だった。
「よくぞ天界に来てくれた、幼き魂よ。私はこの天界に住まう女神であり、汝らを導くものである。天界に来た幼き魂よ、汝らはまだ死ぬには早すぎた」
そう言って女神は、二人にある提案をした。それは二人が生きていた世界とは別の世界に転生し、その世界を救わないか、という提案だった。
「異世界転生キター!」
ブレザーは、異世界転生できることに大はしゃぎしている。しかしその隣にいる学ランは、女神を怪しげな目で見て警戒していた。そんな学ランに、女神は微笑みを向け、心配はいらないと言った様子で返した。
「もちろん、何の装備もなしに世界を救って欲しいとは言わぬ。汝らには、特別な力をいくつか与えよう」
そう言って女神は二人に、光を振りかけた。その光は二人を包み、力を与えた。
「これで汝らには、特別な力が宿った」
女神の言葉に、ブレザーは目を輝かせ、両手を握ったり広げたりしている。
「こんなことをして、あなたは僕らに何をさせたいんですか?」
学ランのはまだ女神を疑っている。その問いに女神は優しい笑顔を向ける。
「世界を救って欲しい。具体的に言えば、世界の歪みを取り除いて欲しい」
そう言って、二人がこれから行く異世界の状況を話し始めた。二人が行く異世界は、歪みという異世界から持って来られたオーパーツがあるそうだ。形は様々で、生き物の形をしているものもあれば、機械的な形をしているものまであるらしい。元々その世界になかったものが持って来られているので、世界のバランスが崩壊しかけているらしい。
「分かりました。この私が、女神様の望みを叶えてみせましょう」
そう笑顔で言うブレザーに、女神は笑顔を絶やさない。
「それでは汝らの健闘を祈っておる」
女神のその言葉を最後に、二人の視界は真っ白に覆われる。眩しさを感じた二人が目をつぶり、次に目を開けると、そこは天界でも二人が元いた世界でもない。空は様々な絵具を混ぜ合わせた色をしており、地面は荒れ果てていた。そんな世界に来て、学ランは戸惑うが、ブレザーは期待で心を躍らせている。
「これから俺はこの世界を救って、この世界の英雄になるんだー!」
そんなブレザーとは真逆で、学ランは不安を抱えていた。
「本当に僕たちはこんな世界でやっていけるのか?」
そう不安をこぼす学ランに、ブレザーは大丈夫と軽く答える。
「俺たちには、女神様からもらった力だってあるんだ。そう簡単に死んだりしないさ」
そう言ってブレザーは、異世界の道を気分上々に歩き出した。それにおいて行かれないように、学ランはブレザーの後をついて行く。こうして、彼らの歪みを取り除く物語が始まった。
世界の歪みを取り除いて数年が経ち、すっかり異世界の歪み除去に慣れたブレザーと学ランの二人は、今日も歪みを取り除くために遺跡の調査をする。歪みの多くは、世界に散らばる無数の遺跡の中に存在することが多く、今日も偶然見つけた遺跡で歪みがないか見ていた。
「あったかー?」
そう間の抜けたブレザーの声が遺跡に響く。
「いや、こっちにはない。そっちは?」
学ランがブレザーに答える。
「全然。やっぱもっと下にあるのか?」
「かもしれないな。とりあえず、行ってみよう」
そうして二人は、遺跡の奥へと進む。この遺跡は縦に長い構造になっており、二人はどんどん下へと降りていく。遺跡と言うのに階段で降りるわけではなく、錆付いた鉄のはしごを使い降りていく。下に行けば行くほど広くなっていく遺跡に二人は苦労する。
そしてついに最深部まで到着した二人は、そこで歪みを発見する。二人は歪みに臆することなく近づいていく。だが、歪みまであと十メートルという距離で、耳を塞ぎたくなるほどのうるさい警報が遺跡中に鳴り響いた。それと同時に、歪みを守るように人型のロボットが大量に現れる。
「学ラン」
「あぁ」
二人は息を合わせ、出てきたロボットを次々と拳で倒していく。ロボットたちも反抗するために、手に持っている銃で二人を攻撃する。だが、その全てが二人には当たらなかった。それどころか、二人に向けて撃たれた弾が、ロボット自身を攻撃した。そう、二人が女神から授かった力とは、二人に向けられた攻撃は全て無効化され、倍の威力で返されるというものだった。そんなチートの能力のおかげで、二人はそこまで苦労せずに歪みを取り除けてこられたのだ。数分も経たないうちに二人はロボットを全滅させた。
「歯ごたえがないなぁ」
すぐに終わってしまった戦闘に退屈さを隠し切れないブレザーは、鼻くそをほじる。
「そう言うなよ。僕たちが女神から授かった力のおかげで、勝ったようなものだ。この力がなかったら、僕らはとっくに死んでいる」
学ランはブレザーに、灸をすえるように叱る。そして二人は歪みを取り除くべく、歪みに触る。二人が歪みに触れると、女神から与えられた力で、歪みを破壊することができるのだ。この遺跡の歪みは、近未来のSFに出て来そうな銃の形をしており、何ともかっこいい形だった。それでも、この銃が世界を崩壊させてしまうことに変わりはない。今回もうまくいき、歪みの原因である銃が木っ端みじんとなる。
「ふぅ、今日も俺は世界を救ったぜ……」
「そうだな。取りあえず歪みは破壊したし、帰るか」
そうこうして、二人が帰ろうとしたあとすぐに、また遺跡中に警報が鳴り響く。そして、遺跡が揺れ始める。二人は動揺し、どうすればいいのか戸惑っている。今まで遺跡から歪みを取り除いたあとに、遺跡に異変が起きることはなかったのだ。
「どどど、どうなってるんだよ⁉」
「分からない。……すぐに遺跡を出よう!」
二人は無我夢中に走り、急いで遺跡の出口に向かう。その間にも、遺跡の揺れは大きくなり、しまいには立っているので精一杯というほどだった。それでも何とか二人は遺跡の出口に着く。ここまで来れば、あとは遺跡を出るだけだ。そして、遺跡を出た瞬間、そこには雲が広がっていた。あまりの出来事に理解が追い付かない二人は、状況を確認しようとするが、頭が理解しようとすると真っ白になっていく。
「どうなってるんだよ。確かにこの遺跡に入ったときは、この先に森があった。なのに今は、空が広がってる」
「もしかしてこれ、飛んでる?」
そう、この遺跡は、元々巨大な宇宙船なのだ。だがどういうわけかこの世界に飛ばされ、知らないうちに長い年月が経ち、土に埋もれていたのだ。それに気づいたところでもう遅く、動きだした宇宙船は速度を上げる。あまりのGに、二人は床に倒れる。
異世界と言っても、この世界もどこかの星なのだろう。大気圏を突破し、宇宙に出た。どこまで行っても、異世界は宇宙が繋げているのだろうか。宇宙に出たことによって、今まで濁った雲で覆われていた場所が見えるようになる。星々の綺麗な輝きは、世界のどんな芸術よりも美しい。そんな光景を前に、二人は死んでいた。大気圏を突破したことで、空気の無い宇宙で人間程度が呼吸できるわけがない。
人類の考える異世界など、この広く美しい宇宙の前では、塵の一つでしかないのかもしれない。
第四話 魔王を倒せ!
とある異世界の魔王城。ここはこの世界を混沌に貶めている魔王の城であり、全ての冒険者の討伐目標である。そんな場所に、二人の冒険者が魔王へと挑戦していた。そして二人はあらゆる城のトラップや敵を乗り越え、魔王が居座る玉座の間へとたどり着いたのだった。
「魔王、貴様がこの世界に混沌をもたらすのもこれが最後だ!」
そう意気込むのは、男冒険者。彼はもう一人の冒険者とともに、この魔王城まで連戦連勝を重ねてきた凄腕の冒険者だ。
「そうよ、私たちがあなたを倒して見せる!」
そしてもう一人の冒険者は、女冒険者。女でありながら、男冒険者とともに連戦連勝を重ねる猛者だ。この二人は負けを知らず、全ての敵に圧勝してきた。
「フハハハハハ! 貴様ら人間が、我に勝とうなどと、身の程をわきまえよ! 我が名は魔王、この世界の混沌にして、最恐の支配者である!」
二人は、魔王へ剣を振りかざす。そして二人同時に、魔王へ突撃した。――数十分後、二人はあまりの魔王の強さに、尻尾を巻いて逃げ出した。後ろからは、魔王が放った追手が迫って来る。敗北を知らなかった二人は、強い敵が迫って来る恐怖で、べそをかいていた。魔王城の城門を抜け、近くの暗い森の中へ逃げ込む。すると、魔王の追手も二人を見つけられなかったのか、魔王城へ帰って行った。追手が遠ざかるのを見送ったあと、二人はほっと胸を撫でおろした。
「まさか、想定外だった。俺たちの攻撃が通用しないなんて……。くそっ!」
そう言って男冒険者は、怒りで地面を殴る。
「物理攻撃はおろか、魔法さえも効かないなんて。いったいどうすれば……」
女冒険者は半分ほど諦めたような口調で、どうすればいいのか分からなくなっていた。そんな女冒険者の横で、男冒険者は必死に魔王を倒す策を練っている。
「真正面から戦っても、勝ち目はほとんどない。だからと言って、不意を突こうにも、こちらの攻撃はさっきの戦いでほとんど知られている。うーむ……」
男冒険者は考え込むが、らちが明かないと言って、森の奥に歩いて行った。女冒険者も男冒険者の後を追う。
「ちょっと、どこに行くの?」
「城を見渡せるような場所」
女冒険者の問いに男冒険者がそう答えると、目の前には魔王城を一望できるほどの小高い山があった。その山を登り、頂上から城を見る。何か方法はないかと、男冒険者はくまなく探す。
「何をそんなに見ているの?」
そう女冒険者が男冒険者に問いかける。
「城門以外から侵入できそうな場所はないか探してるんだ。女冒険者も一緒に探すぞ」
男冒険者の答えに、女冒険者はため息を吐く。
「そんな場所あるわけないでしょ。大体この城は、城門以外には強固な結界が貼ってあって、城門以外からの侵入は不可能よ」
女冒険者は男冒険者のやっていることを否定するが、男冒険者は頑なにやめようとはしない。すると、男冒険者が目を凝らした先に、なんと魔王がいたのだ。魔王は、魔王城の一番高い塔のテラスから地上を見下ろしてゲラゲラと笑っている。その光景に男冒険者は怒りを抑えられず、今ここから魔王に向かって魔法を撃とうとした。だがそれを、女冒険者が止める。
「待ちなさい。ここは城外よ、結界に弾かれるのが目に見えているわ」
「放せ、あのように下界を見下す邪悪を放っておくわけにはいかん! 今ここで殺す!」
男冒険者は魔法の詠唱を始める。それを見て女冒険者は呆れるが、今男冒険者が唱えている魔法は最高火力の魔法だ。もしかしたら、巨大な結界に穴を開けることができるかもしれない。そう思えてくると、女冒険者は魔法を準備する。
「女冒険者……」
「あなたが結界を破壊したら、私が続けて魔法を放つ。あなたは一人じゃない。私たちは、二人で最強よ」
「――あぁ!」
その言葉に活気づけられた男冒険者は、今までで一番威力のある魔法を、結界に向けて放った。こんな一撃をくらえば、結界もただでは済まないはずだ。巨大で黄色い弾となって魔王城に迫ると、結界と衝突する。だが衝突したかと思えば、その弾はすぐにはじき返された。
「「えっ」」
城を包み込むほどの巨大な結界を作れるものなど、魔王くらいしか存在しない。弾かれた魔法は一直線に二人へ向かって来る。女冒険者が動けなくなった男冒険者を連れて逃げようとするが、あまりにも巨大すぎるため、山ごと木っ端みじんになった。こうして二人の冒険者は、山から魔法を放ったが結界に弾かれて、自滅したのだった。
完
お疲れさまでした。