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五 放課後

「たくーっ!行こうぜ!」


放課後、隣のクラスのしんやがドアをガラガラと開けながらオレを呼ぶ。クラスには数えるほどしか、もう人が残っていなかった。ずっと楽しみにしていたSFアニメ映画を、今日こそオレは見に行く!



「ん・・・。」

何だ? 胸の奥に何かがつっかえたようなこの小さな違和感は?


・・・。今朝のことを頭から追い出すようにブンブンッと頭を振った。武術とか意味わかんねーし、あの人に助けられたのも情けねーし、、、。


「どした?」

しんやがドサッとカバンをオレの机の上に置き、顔を覗き込んできた。何も考えず、『待ちくたびれた』とでも言って、映画を見に行かねぇとッ!


ーーーんっ?行かねぇと???

って、オレ、ムキになってんのか?


反応が鈍いオレに、しんやはニヤニヤして肘でつついた。廊下の方をやたら気にしながら、オレの耳元でこっそり呟く。

「うまくやれヨッ。俺、先行って校門のところで待ってるべー。」



へっ?? ふざけた言葉遣いに、廊下に何があるんだと視線をやると、数日前にオレの机の中にラブレター?を入れてた女子が立っていた。受け取るつもりも読むつもりもなかったのに、綺麗に折りたたまれた水色の便箋からは中身が分からなかった。突っ返すのもそれはそれで失礼だしなー。同じ学年だけど、違うクラスだから名前しか分かんねぇ。しんやに会いに隣のクラスに行くたびに、顔ぐれぇは見てたけど。


「違・・・、」


しんやっ、待っ・・・。あいつ、絶対誤解している。いったいオレにどうしろと言うんだ。


しんやが出て行った途端、その子がクラスに入ってきてオレのところまで来た。

「たくみくん、この後少しだけ時間・・ある?」


時間、、忙しい、、時間ない、けど返事しねぇと。




ーーー返事、、、何も考えてねぇ。


「・・・少しなら。ここでいいか?」


数名しか残っていないクラスの奴らが、こちらに意識を集中させてるのを感じた。みんな、何となく恋愛事だと察してるんだろうな。でも、他の場所へ移動しても、学校の中なんてどこも誰かしらいるし。



その子は、周りを気にしながら少し俯き、頬を染め、緊張した様子で小さな声をだした。

「先日、渡した手紙の返事・・・、聞きたいなって・・・。」

セーラー服の袖からみえる彼女の手が、微かに震えている。



しんやなら、とりあえず付き合ってみればいいじゃん、とか言いそうだよな。でも、今のオレには、”とりあえず”、もめんどくせーんだわ。こんな気持ちで付き合っても、相手にも失礼だろ??


「手紙、ありがとう・・・。ーーーごめん。オレ、今そう言うこと全然考えらんねぇから。」



しばらくの沈黙の後、小さな動きで良く見えねかったけど、その子は確かにコクンッと頷いた。そして、少し涙声で、

「・・・。呼び止めて、ごめんね。・・・。また、、、こうやって話してくれる?」

と、一生懸命、笑顔を作ろうとしてくれているのか、ぎこちなく口の端を吊り上げている。


「ああ、 別にいいけど。」


「・・・。」


「オレ、もう行かなくちゃ。」


カバンを手に持ち、イスをガタッと鳴らし立ち上がる。ハッとしたようにその子が顔を上げると、思ったより近くで目が合った。


「!? あっ、うん! ごめんね・・、ありがとう、、、。」


焦ったように涙を滲ませた目を丸くし、耳まで赤くなったその子は、今度は自然な笑顔になった。




教室を飛び出して、校門へ向かって急いで駆ける。オレなんて惚れられる価値もねーよ。今朝だって、あの女性を助けるどころか、逆に助けられる始末だ。助けられるのが嫌なんじゃない。ーーーただ、ケンカで負けたことなかったし、それなりに強ぇなんて、自惚れていた自分に腹が立ってしょうがねーんだっ!!



腹のムカつきが治らないまま、足のスピードを早めると、校門前の壁に、しんやが寄りかかって立ってた。


「しんやー、待ったか?」



茶髪に染めた頭めがけて、声を張り上げる。オレの髪は元々色素が薄くて、陽に透けると茶色になる。そのせいで肌も白くて弱っちく見えそうで、だから密かに、黒髪を染めるのはもったいねぇなと思ってる。しんやにはぜってー言わねぇが。


急にしんやの前で足を止めたので、少し息が上がった。顔を見るとニコニコしてた。


「全然、待ってねぇし。それよりも、たくっ!お前、あいつと付き合うのか?」

人ごとだと思って随分楽しそうだな。



「何バカなこと言ってんだよ。ンなわけねーだろ。恋とか愛とかめんどくせーだけだよ。オレは今は、ゲームと漫画の方が好きなんだから。」


しんやの制服の袖を引っ張りながら、歩き出す。まあ、裏表のないとこがこいつの良いところだ。



「ほんっと、モテる男は言うことが違うねぇ。高校でも一番くらいに可愛い女子に告白されてんのに、フルなんてもったいねー。」


「バカ。単細胞。アホ。好きでもないのに付き合えるわけねーだろ。」


「変なとこで真面目かー? 付き合ってみたら好きになるかもだろ?」



ほら、やっぱりこいつはこう言うと思った。かーさんが亡くなって一人になったうちの親父に、無理やり縁談を勧めてくる親戚のゆりこおばさんみてぇだな。



「そんな暇ねーし。お前も知ってんだろ?」


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