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三 17才の夏 彼女の名前を知った

思わず目をギュッと瞑り、覚悟をした時だった!!! オレの手首に何かが優しく触れたかと思うと、クルッと手首が回転させられるその動きに従い、オレの身体も転げ回るように地面に打ち付けられた。その衝撃を感じる間も無く、耳元で、ガシンッと鉄の塊がコンクリートの床に叩きつけられる音が鳴った。



ーーー今、何が起こった??? 彼女は??? オレ、助けられたのか??


少し背中の痛みはあるが、看板は当たらなかった。こわごわ目を開けてチラリと脇を見やると、硬い地面にめり込み崩れた鉄骨の枠組みが見える。心臓がドクドクとうるさい。コレ、頭に落ちてたら死んでたよな?

冷や汗が垂れ、口も聞けなくなってるオレに、何とも場違いに明るい声が響いた。




「きみ、危ないさねー。」


「はぁ?」


思わず、長い睫毛と大きな目でこちらを覗き込むその女性の顔を見た。やんちゃ坊主を嗜めるようなその表情に、少し苛立ちが募る。いや、オレ、あんたを助けようとしたんだけど。何でオレが怒られるような流れになってるわけ??? ーーーまあ、何も考えず、無鉄砲に飛び込んでしまったのはアレだけれども・・・。


口を尖らせ少しムッとしたオレを気にする風でもなく、「しに驚いた顔してるけど、大丈夫??」

と、聞きなれないイントネーションで話しながら、小首を傾げ心配そうに大きな瞳でジッとこちらを見ている。爪先が綺麗なピンク色に塗られた、白くて柔らかそうな手をオレに差し出してくれてた。




情けないことに、腰が抜けそうになっていたオレは、ありがたくその女性の手を取る。その場で彼女が電話をかけ、廃ビルのオーナーが落ちた看板を回収に来てくれることになった。彼女は近くの自動販売機でオレンジジュースを買ってくれ、オレに勧めてくれた。一限目の授業はどうせ遅刻だ。オレは、その女性とすぐ近くの公園のベンチに腰を下ろし、缶ジュースを飲み待つことにした。



さっきは気づかなかったが、クリーム色の大きなカバンを肩に下げている。旅行だろうか? 都心ならまだしもこんな何もない場所に。



彼女はカバンを傍に置き、オレの隣に座った。助けてくれたお礼を伝えた後、居心地の悪さを隠すように、こんな場所に旅行にでも来たのか聞いてみた。彼女は半分旅行よ〜!!、と、楽しそうに笑う。あいり、と言う名前らしく、年は24才と言っていたが、随分若く見える。二週間だけ東京に滞在する予定で、沖縄から来たばかりらしい。たった今死にかけたというのに、呑気な顔して、よほど肝が据わっているみてぇだ。



「はぁ~、しに暑い~。」


手でパタパタと扇いで、空を仰いでる彼女は、ふんわりとした雰囲気で、さっきのが嘘みてぇだ。彼女の白くて細い首筋がしっとりと濡れ、陽に煌めいた汗の一筋が胸元へと落ちていった。



凝視してしまった自分が恥ずかしく、ふいっと目を逸らし、缶ジュースを口に流し込んだ。


「沖縄の方が暑いんじゃないっすか?」



「んーー、でも海も近いし、ちゃぁ風が吹いてるからに・・・!」



「そうなんっすか。」


ーーなんか分かったような分からないような答えだな。まあ、今ここが暑ぃのはその通りだ。午前中ということもあり、我慢できないほどではないが、やっぱあちぃ。




オレは、ジリジリと焦げ始めた日差しが、照り付けている地面を見つめていた。すると、突然目の前に、先ほど女性にまとわりついていた”黒いナニカ”が、また現れた。




《お前、この女性から離れろッ!》

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