ゲーム制作の下請けは大変です。 ~ゲームのモンスターを用意するのは大変です!~
育 成美が入ったのはゲームの下請け会社。
この会社は、ゲームに出てくる様々な物の内、モンスターを準備する事が仕事だ。
そんな会社に入った新入社員の育 成美と上司の曽田 輝。
二人が今回扱うモンスターは……
「本日入社しました育 成美です。よろしくお願いいたします」
「育さん。私は上司の曽田 輝です。こちらこそよろしく。早速で悪いけど、うちは小規模の会社だからOJT、つまり働きながら仕事を覚えてもらいます。もちろん質問はどんどんしてくれていいから」
「はい!わかりました!」
「元気いいねー。じゃぁ、仕事場に行くよ」
曽田はそう言うと育と一緒に仕事場へ歩き出した。
曽田の会社では、現在モンスターブリーダーが不足していたため、人員を募集した。
その募集で入って来たのが、育だった。
「一応聞いておくけど、君はわが社、モンブリ社の仕事内容は知っているよね」
「もちろんです。皆が大好きな娯楽、ゲームを制作する際に必要なモンスターを用意する事ですよね」
「そう。ゲーム制作の際に必要になる様々な物……人、モンスター、宝箱とか色々あるよね。その中でわが社は主にモンスターを創り出すのが仕事だ。もちろん依頼された通りの外見やスペックを持つ、ね。」
そう、この会社では、依頼されたモンスターを創り出しだし、自前の牧場で飼育し依頼された数用意する事を業務としている。
「ちなみに、私達は主に中ボスを創り出しているんだ」
「中ボス?ザコモンスターじゃないんですか?」
「ああ、勘違いする人が多いんだよね、小さい会社はザコモンスターを扱っているって。ザコモンスターは重要ボスモンスター同様、大手が扱う事が多いんだよ。特に大手の会社が作るゲームはその傾向が強いね」
「どうしてですか?」
育の質問に、曽田は今までも何度もした事もある内容を答えた。
「質問を質問で返すようで悪いけど、大手のゲームのザコモンスターは何匹位用意されると思う?」
「えーっと……一万、とか?」
「ざーんねん、はずれ」
「え、じゃぁどのくらいなんですか?」
「ゲームタイトルにもよるけど……例えば最大手の一つ、株式会社シカク・エックスのトラコンクエスト、通称トラクエの出荷数は約四百万本、そしてその中で一番のザコであるスライムの用意する数は……多分最小でも千は用意するんじゃないかな。つまり、四百万かける千、つまり四十億匹だ」
「よ、四十億……」
あまりの数に口が開きっぱなしの育に向けて、曽田は続ける。
「しかも種類も多いから、管理が大変らしいよ。なんにせよ。それだけの数を飼育するんだ。大牧場が必要なのはわかるだろ?」
「は、はい……」
「で、わが社のような小さな企業は何をするかと言うと、数が少なくてあまり重要でないキャラ、つまりRPGでいうなら中ボスの中でも大して重要視されない、単なるプレイヤーの壁になるだけ、ストーリーにも大して関わらないキャラを産みだすのが仕事なわけだ。もちろんザコモンスターを扱う事もあるけど、小さな会社からの依頼だけだね。大手の依頼の数を扱うだけのスペースが無いから」
曽田は業界での自分達の立ち位置を説明した。
重要なモンスターは扱わせてもらえず、数が必要なモンスターも扱わせてもらえない。
その程度の立ち位置なのだ。
「そんなー。私、スライムとか、弁天堂のフリオのクリポーとかポクモンのビカチュウみたいな、ゲームの顔になるキャラに関わりたかったのに」
「まぁ、運が良ければ関われるかもな。宝くじクラスの幸運だとは思うけど」
「そんなー」
「ザコモンスターの中でも会社の顔になっている奴らは完全子会社みたいな所で育成する事がほとんどだからね」
がっかりしている育に、曽田は当たり前の疑問を覚えた。
「疑問なんだけど、なんでうちみたいな小さい会社じゃなくって、大手に入らなかったの?」
「……がく」
「?」
「お金がなくって、大学に入れなかったんですよー!大手はみーんな大学卒業が必須なんですー!!」
大手は大学が必須だ。
大手のザコモンスターの管理は数が超大量ゆえに様々な知識が必要。
まして重要ボス、特にラスボスや隠しボスクラスのブリーディングには最高級の知識が必要になる。
それゆえに学歴も重要視されるのだ。
とはいえ、学歴不要の小さな会社でもそういったモンスターを育成している所もある。
だけどそんな会社を利用してくれるのは、ゲーム売上本数百から千行けばいい方の弱小インディーズゲームの会社位だ。
「まぁ、頑張れ。ありがたい事にうちは大手から仕事が来る事も時々あるから」
「はい……」
曽田は育に少し同情しながら元気づける言葉をかけた。
「それに、小さな所からの依頼で創ったモンスターが後々有名になる事もあるし、ね」
「そ、そうですよね。頑張ります」
元気を取り戻した育を見て、曽田は単純な奴だなー、と思った。
「で、さっそく今請け負っている仕事なんだけど……」
「弁天堂ですか?シカク・エックスですか?」
「残念。あまり知られていない中規模の会社です」
「そうですか……」
「まぁ、百聞は一見に如かず。この先の牧場中に居るから」
そんなこんなで牧場に着いたのだが……
「あの……こいつらですか?」
「そうだよ」
「人型ですね」
「結構多いよ、人型モンスターの依頼」
「いや、それはいいんですけど……踊ってますね」
「踊ってるね」
「舌出してますね」
「出してるね」
「……」
「……」
そう、牧場にいるモンスターは、人型で舌を出しながら踊っている、人を小馬鹿にしたようなモンスターだった。
「どんな中ボスなんですか?このふざけた奴らは」
「あぁ、主人公が立ち寄った村で村人を強制的に踊らせているんだ。こいつの踊りを見ると強制的に踊らされる能力を持つんだ。まぁ、戦闘では確定で踊らさせる訳じゃないし、ワンターンで解除されるし、ステータスもザコモンスターよりちょっと強い位だからあっという間に倒されるだろうね」
「村人は全員踊らされ続けるのに、主人公達との戦闘ではワンターンで解除されるんですね」
「まぁ、踊り続けさせられれば戦えなくなってゲームオーバーだからね」
「そうですね」
そんな話をしながら、曽田は顔色一つ変えずに育を見た。
「というか……育さん、さっきから何をしてるんですか?」
「踊ってます」
「なぜ」
「あいつらを見たら体が勝手に……」
「踊り出した、と」
「はい」
踊っている育を見て、曽田は呆れたような顔を見せた。
「育さん……モンスターブリーダーには必須のスキル、知ってますか?」
「特殊無効スキルですよね。モンスターの特殊能力に掛からないようにする」
「そうです、よく知ってますね。で、持ってないんですか?」
「……はい」
「……」
「……」
しばし訪れる静寂。
そんな中でも踊り続ける育を見ながら、曽田は……
「そんな奴がモンスターブリーダーになれるわけねーだろーが!大学以前の問題だわ!!」
「ずびばぜん!!!!!」
怒鳴った。
当たり前だ。
「というか、特殊無効スキルの取得はそんなに難しくないだろーが!普通に勉強して、スキル取得テストを受ければ大体の人は取得できるぞ!なんでしなかった!!」
「べんきょー苦手なんですー!でも体力には自信あります!!」
「あー、もー。なんでうちの会社こんな奴入社させたんだよ、役立たずじゃないか!」
「人手不足だからじゃないですか?」
ちなみに、モンスターブリーダーになる為に必須の資格とかは別に無い。
「急に真面目な顔して言うな!顔だけ真面目になってもまだ踊り続けてるし!!」
「止まらないんですよー!」
「さっきも言ったがこいつの踊りはワンターン踊らされたら一旦解除されるんだぞ!なのに踊り続けるなんて、お前の特殊耐性はモブキャラレベルか!」
「そんなこと言われてもー」
「あー、もう。薬買ってくるからしばらく踊ってろ!」
モンスターを育成する牧場は街とは離れているのだ。
二時間後……
「ほら、飲め。薬だ!」
「飲ませてください。踊っているので持てません」
「あー、もう。口開けろ!」
「ぶっっ……な、なんで液体なんですかー?」
「液体しかないんだよ!」
こうして、育はようやく踊りを止める事が出来た。
「はー、疲れた」
「疲れた言う割にはよく立っていられるな。」
育は、曽田が一時的に特殊無効スキルを得る薬を買って来るまでの約二時間、踊り続けた。
普通の人ならぶっ倒れて当たり前だろう。
だが、育は肩で息をしているがそれだけだ。
「私、体力には自信ありますから」
「体力は無いに越したことはないけど、学力とかスキル習得とかにもっと力を入れておくべきだったな」
「……すみません」
「まぁ、元気があるんだったら薬の効果が切れる前に仕事済ませるぞ」
「はい!」
育 成美。
特殊耐性はゼロだが体力は一流だった。
なにはともあれ、こうして仕事が再開された。
「モンスターにあげるエサは基本同じ量だ!量が違うとステータスに差が出るからな!」
「はい!」
「そいつは先日病気になったからステータスが下がっている!餌を多めにあげろ!」
「はい!」
「餌が終わったら体の掃除だ。肌が汚れたら出荷できないからな」
「は、はいっ!」
「次は……」
……
…………
こうして、新米モンスターブリーダーの時間は過ぎていくのだった。
お楽しみいただけましたでしょうか?
ゲームに登場するモンスターを準備する仕事。
ふとそんな内容を思いついて書いてみました。
色々考えた設定として、
今ではオンラインアップデートがあるから昔と違って追加注文が多いとか。
オンラインゲームやスマホゲームのモンスターは長期契約だから大変だけど儲けがいいとか。
長編に出来るかな、これ。
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