宴会にて。
酔っ払った語り部は、少し離れた位置にふらふらと座る。楽しそうな景色に目を細め、ぼんやりと思考に耽る。アナタはそんな語り部の中を覗く。
――この場所は、私達の終点では無かろうか。
ふと、酒を呑みながら思い付く。
周りの仲間達は楽しそうに酒を酌み交わしたり、突然立ち上がって踊り出したり、泣きながら訳の分からん唄を大声で歌っていたり。
此処は、幻想郷。隔絶された、幻達の住処。
外界には存在すら知られぬ孤独な鳥籠。
見捨てられた者たちの、最後の故郷。
私達は、1人1匹が色々な道を歩き、感じ、見てきた。
そしてここに辿り着いた。
様々な場所を見て来ただろう。色々な生き物に会っただろう。沢山の物を口にしただろう。
そして、人々から全てから忘れ去られた。
さて、いつだか誰かに教えてもらった話だが、「物は誰かに観測されて初めて『存在』する」らしい。
そして、ここは外界には知られていない。
つまり、観測されていない。『存在しない』のだ。
本来孤独に消えてゆくはずだった私達は、『存在しない』鳥籠に導かれ、互いに認知し合う事で再び『存在』を取り戻した。
そして、もう朽ち果てる以外に道のない私達は、ここに留まる事を願った。自らの長い旅の終着点にここを選んだ。
どこまでも魅力的で、美しく、儚いこの場所に。
もうすぐ世が明ける。
わかりにくいよね。
綺麗な夜明け。都忘れの花畑。迷子の月。泣かないで、そばにいる。
―――何も無くなる、その時まで。
突然目を閉じて、語り部は立ち上がる。
…どうやら、伸びがしたかっただけらしい。
そのまま語り部は、また宴席に戻っていった。