5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと
5-20
この病院は、病室に入る際にはインターホンを鳴らすのかと、少々不思議に思い、扉を見つめるが、いつまで経っても開く気配はない。
なんだったのだろうかと訝っていると、ベッドのすぐ脇から声がした。
「どこを見てる?」
突然の声に、思わず変な声をあげる。
「おぅわ!?」
「古森さ〜ん。お久しぶりです〜」
ベッドの脇には、スーツをビシッと着こなし、細めの眼鏡をかけた、いかにもやり手ビジネスマン風の長身痩躯の小野様と、ランニングに短パン、裸足という出で立ち。そして、尖った耳と、尖った犬歯。さらには、頭には二本の角という、相変わらず何かのコスプレをしているようにしか見えない小鬼の姿があった。
「えっと……何をしているのですか?」
思わず失礼な聞き方をしてしまったが、小野様は気分を害した風でもなく、相変わらず淡々と話をする。
「定期視察だ」
「定期視察?」
「そうだ。今回の研修は、前回と違い、現世時間の30年後まで、区切りがない。そのため、こうして、私が定期的にそなたの様子を見にくることにした」
「え? あ、そうなのですか……。僕はてっきり……」
「てっきり? なんだ? 視察は不服か?」
「いえ。そう言うわけではありませんよ」
僕は、思わず頭を掻く。
てっきり……30年後まで会えないのだと、感傷に浸っていました。
なんて事は、恥ずかしいので口にはしない。
「古森さん、古森さん」
小鬼は、ベッドによじ登ると嬉しそうにキラキラとした笑顔を見せる。
「僕、初めて現世に来ました〜!」
「あ〜、そう言えば、そうだったね。どうだい? 本物の海か川にはもう行けた?」
「いえ。まだです〜。今回は、小野さまに特別に連れてきて頂いたので、まずは、視察目的である、古森さんにお会いする事を優先させて、ここへ来ました〜。でも、この後で、ちょっとだけ、寄り道してもらえるのです〜! ね、小野さま?」
小鬼は、まるで遠足に行く子供のように、ウキウキを隠し切れていない満面の笑みを振りまいている。
「まぁ、此度は、初回故、多少大目に見る予定だ」
小野様は、なんだかんだと言いながら、やはり小鬼に甘い。この二人の不思議な関係性の謎はまだ解けていないが、それは、まぁ、これから付き合っていく中で次第にわかってくるだろう。
「そういえば……」
二人の関係性についても大いに気になるところではあるが、せっかく再び会えたので、僕は、目覚めてから、気になっていた事を、小野様に向けてみた。




