5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと
5-19
「そんなことを言ってると、また母さんに怒られるぞ」
「あはは。そうだね。気をつける」
僕らは、一頻り笑い合う。
「あのさ、にいちゃん」
「何?」
「咲がさ……、にいちゃんの事故を知って、会いにきたがってるんだ……。まだ、目が覚めた事は知らせてないけど、とても、心配してたから。……その、いいかな?」
弟は、なんだかモジモジとした感じで、僕にお伺いを立ててくる。もしかして、弟は、僕の咲への気持ちに気がついていたのだろうか。
この気持ちにも、近いうちに決着をつけなければいけないな。
そう思いながら、僕は軽く頷いた。
「僕は、いいけど、こんな状態だから、何もお構いはできないよ?」
「いいんだよ。アイツにそういう気遣いは。知ってるだろ、幼馴染なんだから」
そう言いながら、弟は膝を叩いて立ち上がった。
「じゃ、連絡してくるわ。たぶん、すぐにでも来るって言い出すと思うから、俺、迎えに行ってくる」
立ち上がった弟を見上げた瞬間、「りんごの風船」と言って泣いていた、小さな弟の俤が重なり、僕は思わず口を開く。
「大きくなったな、保」
「ハァ? 何言ってんの? 随分前に、にいちゃんの身長越してたっつうの」
弟は、手をヒラヒラと振りながら病室の出口へと向かう。
弟の背中を見ていた僕は、ある事を思いついて、少し伸びをしながら、広くなったその背中に声をかけた。
「あのさ、シュークリーム買ってきてよ。とびきり美味しいやつを4つ。あと、それから、りんご味の飴」
僕のリクエストに、扉に手をかけていた弟が振り返る。
「そんなに注文があるなら母さんに言えば良かっただろ。……まぁ、今日は特別に聞いてやるけど。じゃあ、また後でな」
母も弟もいなくなり、一人になると、先ほど微かに鼻を掠めた金木犀の香りを妙に強く感じて、窓へと視線を向ける。
光が眩しくて、思わず目を細め、手渡されたまま、話に夢中でまだ口をつけていなかったペットボトルのお茶を無意識に、口へと流し込む。
少し濃い目のお茶だった。初めは渋いのに、喉元を過ぎると、ほのかに甘くスッキリとした喉越しに、思わずゴクゴクと喉を鳴らす。
一頻り飲むと、ペットボトルから口を離し、しげしげと、お茶を見つめた。
生きると言う事は、このお茶みたいだ。渋くて、嫌なことも、時が過ぎれば、受け止め方が変わるし、スッキリと心が晴れることもある。
そんな哲学めいた思考に、一人苦笑いを浮かべていると、チャイムが鳴った。
ピンポーン




