5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと
5-16
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ピッピッと電子音が一定のリズムを刻む中、コポコポと水が湧くような音がする。
ピクリと右手の指を動かすと、瞬間、手を握られた。
「衛!」
「にいちゃん!」
耳に届く大きな呼びかけに反応して、ゆっくりと目を開く。
開けた視界に映ったのは、白い天井に白い壁。先ほどまで、小野様や小鬼と話をしていた部屋と同じ色の部屋。しかし、そこにはなかった明るい日差しの溢れる窓。
そして、その光を背に浴びながら、僕を覗き込む、母と弟の心配そうな顔。
戻ってきた。
二人の顔を見て、僕はそう思った。
そして、まだ、ぼんやりとする頭に小野様の言葉が浮かぶ。
(現世での生活を、未練なく行なってこい)
そうだ。僕に再び与えられた時間は、30年。長いようで、あっという間に過ぎてしまうであろうその時間を、意味のあるものにしなくては。
僕は、ぼんやりとしていた頭の中の靄を払うように、声を出す。
「……かあ……さん……」
その声に応えるように、母は握っていた僕の手をさらに強く握った。
「衛……良かった……」
鼻声でそれだけ言うと、母は、弟に声をかける。
「保、医師を呼んで頂戴」
「うん」
弟は、僕の頭上へと手を伸ばし、ナースコールをした。
しばらくすると、医師とナースが連れ立ってやってきて、目を覚ましたばかりの僕の頭や体を色々と触る。
どうやら、僕は、あの事故の後、丸一日意識がなかったらしい。
大きな事故だった割に、僕の怪我は、両足骨折だけにとどまった。ただ、事故に巻き込まれた際に、頭を強く打ったため、いつ目覚めるかは分からない状態だったと、医師から説明を受けた。
医師の話を聞きながら、僕は、どこか夢見心地のままだった。
僕は、自分が死んだことをしっかりと覚えている。もちろん、小野様や小鬼、冥界区役所の宿泊所や体感ルーム内での出来事。全てをはっきりと覚えているのに、自分のおかれている現状との違いに、あれらが、全て夢だったのではないかと思えてくる。
しかし、今までの出来事が全て夢ではない証が僕の体には刻まれている。
医師等が簡易的な検査を終えて、先ほどまで、規則正しい電子音をさせていた機械と共に部屋を出ていくと、僕は、リクライニングのベッドを母に起こしてもらった。
目線が高くなると、ギプスに包まれた、いかにも痛々しい両足が視界に入る。
そして、ギプスから出ている右膝には、5つの傷。




