5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと
5-12
「人の気持ちを素直に受け取れるようになったところだ」
「人の気持ち……ですか?」
「そうだ。ここへ来たばかりの頃のそなたは、自分の思いも、他人の思いもぞんざいに扱っておった。しかし、そなたは、変わった。気持ちを大切にするようになった。最初のままのそなたなら、幾ら小鬼に進言されたとしても、私は、そなたを受け入れはしなかった」
確かに僕は、『ありがとう体感プログラム』を通して、変わったと思う。
しかし、今はまだ、極度の人見知りが少し、自分の殻から出てきただけだ。人並みにほんの少し近づいただけのように思う。
そんな事を思い、つい卑屈になりそうになる。でも、ここで、もう少しだけ考えてみた。
小野様は、これまで、事務的に、しかし、的確な物言いしかしていない。つまり、そこには、本心以外含まれていないのだ。
そんな人が、「変わった」と言っている。これは、彼の本心なのだ。つまり、この言葉は、実直な彼からの、最大級の賞賛なのではないだろうか。
自分では、ほんの少しだと思っていても、周りは、そのほんの少しを、しっかりと評価してくれているということではないだろうか。
小野様の言葉を、胸の内で温めながら、足元にいる小鬼へと視線をやると、しっかりと僕を見上げていた視線とぶつかる。
小鬼は、無言で力一杯頷いた。
小鬼の反応に、僕は、自分の考えに自信を持つ。そして、小野様をしっかりと見据えた。
「ありがとうございます。ご期待に答えられるよう、これからがんばります」
「うむ。なかなかに良い返しだ。もしも、私の言葉を素直に受け止めなかった時は、問答無用で地獄へ送るところだったわ」
「えっ??」
小野様は、口の片端を上げて、とんでもない事をサラリと言う。
その言葉に、僕は瞬時に青ざめ、固まる。
小鬼は、そんな僕を慰めるかのように、僕の右脹脛を軽くポンポンと叩いた。
それから、腰に両手を当てて、小野様へと向き直る。
「も〜、小野さま〜。冗談は、おやめください。古森さんが固まってしまったではありませんか〜。そういう発言は、パワハラですよ〜。パ〜ワ〜ハ〜ラ〜。コンプライアンスに抵触しますよ〜」
小鬼のお叱りモードに、小野様は、片眉を上げて、面倒臭そうな顔になる。
「単なる軽口ではないか。本当に、近頃は面倒くさい」
「そんな事を言って、ダメですよ〜」
軽口……冗談……だったのか。




