5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと
5-4
「古森さん~、カップをお預かりすますね~」
「あ、ああ」
僕の手から、リラックスサプリの入ったカップを受け取ると、小鬼は、それを、ベッドの向かいにある、自分の背丈よりも高い机の上にぴょんとジャンプをして置き、僕の方へと戻って来た。
何故だか、小鬼の顔は、先ほどよりも笑みが深まっている。
小鬼は、ベッドの上に放り出したままになっていた焼鏝を、ズルリと引きずり下ろした。
焼鏝を手にした小鬼は、やはり、満面の笑みだ。
「な、なに?」
小鬼の、意味不明な行動に、僕は半身仰反る。そんな僕を、小鬼はニコニコと見つめてくる。
さらに体を仰け反らせようとしたその時、わざとらしい咳払いが室内に響いた。視線をそちらへ向けると、事務官小野が、細眼鏡の真ん中あたりを、指で押し上げていた。
「話を続けても良いか? 古森?」
「えっ? ああ、はい。えっ? でも……」
僕は、事務官と小鬼を交互に見る。全くの無表情と、全開の笑顔。どちらも、心情が読み取れず、見れば見る程、不安感が募っていく。
「あ、あの、なんで小鬼は、焼鏝を手にしている……のかなぁ?」
これまでの経験から、小鬼の手の中にあるものが、それほど恐怖心を抱かずとも良いものであることは、分っているのだが、状況が状況だけに、恐怖心が煽られる。
「古森さん~。右膝を出してください~」
満面の笑みで僕との距離を詰めてくる小鬼を回避すべく、僕は、ベッドの上へと上がり、じりじりと後ずさる。数瞬の攻防を冷めた目で見つめていた事務官は、面倒くさそうに、小鬼を制した。
「小鬼。しばし、待て。まだ、古森に、何も説明しておらぬ」
事務官の言葉に、小鬼は、ハッとしたように、事務官と、僕の顔を見る。
「申し訳ありません~。つい、嬉しくて、先走りました~。続けてください~」
小鬼は、焼鏝を両手で持ち、その場で、シュンとなる。小さな体を、さらに小さくしている様は、先ほど、異様な恐怖心を煽ってきたそれと、同一とは思えないほどに、かわいらしく、反省の態度を示している。
事務官小野は、小さくため息を吐くと、僕へと向き直る。
「小鬼が、先走ってしまったが、これから、そなたには、認証印を一つ施す」
「えっ? 認証印って……」
僕は俯き、自分の右膝を見やる。ズボンに隠れて見えないが、右膝には研修修了の証の焼印が4つ施されている。




