5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと
5-3
僕の表情から、大丈夫だと判断したのか、事務官は、頷くと口を開いた。
「まず、今回の研修の趣旨は、何であったかを覚えているか?」
「日常生活において、感謝の気持ちが生まれる場面を体感する……ことですか?」
「そうだ。生きている間に、人が当たり前に体感するべき感謝の気持ち。それをそなたは経験せずに、ここへと来てしまった。この、感謝の経験度合いによって、地獄では、救済措置が施されることになる訳だが、そなたにどのような救済措置を施すべきか、はたまた、救済措置なしの最恐地獄送りにすべきかが、これまで検討されてきた……」
そこで、事務官小野は言葉を切る。居た堪れないほどの緊張感に、僕は押しつぶされそうになりながら、ゴクリと生唾を飲み込む。
「そなたの研修の出来具合により、概ねの結論は出ていた」
「そ、それは……?」
「研修であるため、こちらがある程度、道筋を立てていたとはいえ、そなたは、謝意を表すことも、受ける事もできた。つまり、そなたの心意は、極悪という程のことはなかろう。したがって、等活地獄行きが妥当だろうと言う判断だった」
「等活地獄?」
「まぁ、最も多くの死者が送られる、一般的な地獄、とでもいえば良いか」
「え〜っと、つまり、僕は、最恐レベルの地獄行きを回避出来たという事ですか?」
「結論から言えば、そうなる」
事務官小野の、さらっとした肯定に、しばしの間が開く。
それから、僕は、眉間に皺を寄せつつ、眼を閉じる。最大級の安堵を噛み締めながら、叫び出したい気持ちを、グッと堪える。
しかし、内なる喜びは、隠せるはずもなく、僕の口からは、喜びが漏れ出る。
「……やった……やった……やったよ、小鬼」
僕のそばに立つ小鬼を見下ろせば、当然という笑顔で小鬼は頷いた。
事務官は、僕の安堵などお構いなしに、淡々と口を開く。
「これからの話をしても良いか?」
「あ、はい。すみません」
事務的な声は、少しだけ僕を冷静にさせる。僕は、気持ちを落ち着かせ、居ずまいを正す。
事務官は、そんな僕からスッと視線を外すと、僕の足元にいる小鬼に向かって、事務的な連絡事項とでもいう口調で、小鬼に、用件をさらりと伝えた。
「例の件は、そなたの提案が承認された。故に、準備を」
「本当ですか~! よかったです~!」
全く内容の分からない話に、僕は大きく首を傾げる。
そんな僕の脹脛を、小鬼はチョンチョンと突き、僕の意識を下へ向けさせる。




