5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと
5-2
小鬼は、足をプラプラとさせながら、楽し気に思いを馳せている。そんな姿を見ていると、少し羨ましくなった。
「できるなら、したいと思うなら、やるべきだよ。小鬼」
僕の言葉に、小鬼は、小首を傾げながら、僕を見る。僕は、嫌味にならないように微笑む。
「ほら、僕はもう、できないから」
小鬼は、ハッとしたように、眼を見開き、それから、小さく呟く。
「あの……、もしかしたら……」
何かを言おうとした小鬼の言葉に被せるように、室内にチャイムが鳴り響き、来訪者があることを知らせた。そして、すぐに、事務官小野が、室内にパッと姿を現した。
地獄へ結果を報告に行くと言って姿を消していたから、僕の処遇が決まったのだろうか。事務官の表情からは何も読み取れない。
僕は、ベッドの縁に腰かけたまま、両手を握り、体を固くする。そんな僕の気配を感じたのか、僕の太腿を、小鬼が優しくポンポンと叩いた。
小鬼に目を向けると、小鬼は、笑顔を見せる。そして、うんと、一つ頷いた。それは、大丈夫だと言っている気がして、僕も無言で頷き返した。
「待たせた」
事務官の事務的な声が、室内にやけに大きく響く。
「……いえ」
それに引き換え、僕の声は、掠れきっていて、本当に声が出ているのか分からないほどに、小さい。
「古森。今回の研修結果を受け、先ほど、地獄の裁判にて、そなたの処遇が決まった。早速伝えても良いか?」
「……は、はぃ」
しっかりと声を出そうと思っているのに、全く喉から音が出ない。
そんな僕を見兼ねて、事務官は小鬼に指示を出す。
「小鬼。例のサプリを、古森に」
「はい〜」
小鬼は、ピョンとベッドから飛び降りる。
しばらくして、手に小さな白いカップを持って戻ってきた。
「古森さん〜。コチラをどうぞ〜」
手渡されたカップからは、金木犀から漂うような甘い香り。このサプリを口にするのも、おそらくこれが最後だろう。
僕は、素直にカップに口をつける。
一口コクリと飲むだけで、気持ちも喉も解される。
どんな結果になっても大丈夫。
本当は、潔くそう思いたいけれど、やっぱり最恐レベルの地獄なんて怖すぎて、このまま耳も目も塞いでしまいたい。
だけど、今回のことで、遅まきながら少しは変わったであろう僕が、地獄でどのように評価されたのか、気になるのもまた事実だ。
がんばったと言ってくれた、小鬼の言葉に背中を押され、僕は、大きく息を吐く。
「お待たせしました。お願いします」




