5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと
5-1
事務官が姿を消し、どことなく室内の空気が緩む。
ヘナヘナとベッドの縁へ腰を下ろした僕の元へ、小鬼が、焼鏝を手に駆け寄ってきた。
「古森さん〜。早速、認証印を押してしまいましょう」
「ああ。うん」
僕はズボンの裾を捲りあげ、3つの焼印が施された右膝を小鬼に向ける。
「では、行きますよ〜。はい、3、2、1〜」
小鬼の掛け声の後に、ジュウと肉の焼ける音が耳に届く。
音が聞こえなくなり、しばらくして、右膝を確認すると、3つ目の傷と同じライン上、2つ目の傷の右斜め上に、新たに赤く焼け焦げた小さな傷が付けられていた。
「はい。古森さん、終わりました〜。お疲れ様です〜」
僕はしばらく、右膝の傷痕を眺めてから、小鬼に声をかけた。
「ねぇ。小鬼?」
「はい。何でしょう〜?」
「これから僕はどうなるのかな?」
僕のポツリとしたつぶやきのあと、小鬼は手にした焼鏝を、ポンとベッドに置き、自分は、ヨッと掛け声を掛けつつ、ベッドへと飛び乗る。僕の右隣に腰を下ろすと、僕を見上げながら、ニカッと笑う。
「きっと、大丈夫ですよ~。古森さんは、頑張りましたから~」
「そうかな? ほとんど小鬼のおかげだよ。励ましてくれたり、ヒントをくれたりしてくれたから」
「いえいえ~。僕は、お仕事をしただけですよ~。お母上にしっかりとお話をされていたのは、古森さん、ご自身ではないですか~」
「母さんか……。本物の母さんとも、しっかりと話をすれば良かったな……」
「古森さん……」
感傷的になり、口籠る僕につられてか、小鬼も俯いてしまう。
しばらく、室内を静寂だけが過ぎていく。
その静寂を終わらせたのは、小鬼の遠慮がちな問いだった。
「あの、古森さん?」
「うん?」
「もし、もしも、ですよ? もし、もう一度お母上に会えたら、何をしますか~?」
「もう一度? う~ん。そうだなぁ」
僕は、顔を上に向け、腕を組み、眼を閉じて考える。頭の中では、あれやこれやと、僕と母が二人で過ごすイメージが駆け巡る。
やがて僕は、眼を開き、小鬼の方へと向き直る。
「母さんと、お茶を飲む、かな」
「お茶ですか~?」
「うん。そう。今回の研修みたいに、お茶を飲みながら、いろいろ話したい。それに、話さなくてもいい。ただ、まったりとした時間を一緒に過ごすだけでもいい。これまで、そういうこと、したことがなかったから」
「それは、いいですね~。素敵な親孝行だと思います。僕も、今日帰ったら、母上と、お茶しようかな~」




