4.とうもろこし色のヒカリの中で
4ー21
でも、これは、間違っていないと思う。だって、僕は、ここに来て、小鬼に、そして、この『ありがとう体感プログラム』内で出会った、保や咲に、人と向き合うきっかけをもらったから。相手を気遣い、言葉を交わし、気持ちを知ることの大切さに気付かされたから。
だから、僕は自信を持って頷いた。
「はい! 僕は、そうして、気づくきっかけをもらいましたから」
ソファに座る小鬼をチラリと見る。小鬼は満面の笑みだった。
「僕は、人と話すことの大切さに、自分の思いを伝えることの大切さに、最近になって気がつきました」
「そうなの?」
「はい。でも、残念ながら、気づくのが遅かったようで、心配してくれていた人を悲しませたままになってしまいました」
「それは?」
「母です。きっと、僕のことを心配していたと思います。でも、もう僕は、母と話をする事が出来ません」
「それって……? そう、そうなのね」
母は、目を伏せる。何かを考えているようだった。
その時、脱衣所の方から、乾燥が終わったことを知らせる電子音が聞こえてきた。
「あら? 服が乾いたようね」
母は、席を立ち、脱衣所の方へと、足早に向かった。
僕は、母が好きだというオクスス茶をコクリと飲む。
うまく話せただろうか。少しでも、僕の気持ちは、伝わっただろうか。
ボンヤリと考えていると、乾燥したての僕の服を抱えて、母がリビングへと戻ってきた。
手渡された服は、まだ暖かく、いつまでもこの暖かさに包まれていたいという思いが頭を過ぎる。
温もりを感じていると、咳払いが一つ聞こえてきた。視線を向けると、事務官小野が、無表情のまま、腕時計を指でコツコツと2度叩いた。
そろそろ、本日の業務終了時間ということだろうか。
僕は、慌てて着替えを済ませると、母に声をかけた。
「服、ありがとうございました」
借りていた服を母に手渡す。
「いいのよ。気にしないで」
「あの、僕はそろそろ……」
「ああ、そうね。私も夕飯の準備をしなくちゃ」
母は、チラリと壁に掛かっている時計へと目をやる。つられて僕も、室内へと視線を巡らした。
もう僕がこの空間に足を踏み入れることはないだろう。
母と連れ立ち玄関へと来ると、僕は心の中で我が家に別れを告げた。
「それじゃあ、僕はこれで……」
「……あなたと話せて良かったわ。ありがとう」
テッテレ〜〜
僕は、笑顔で母に一礼すると、玄関のドアを押した開けた。
雨は上がり、外は、とうもろこし色をした光に包まれていた。




