4.とうもろこし色のヒカリの中で
4ー18
「きっと、息子さんは、気にしていないと思います」
「そうかしら?」
「はい。だって、その話、小さい頃のことなんですよね? たぶん、本人は覚えていないと思います」
「でも……だったら、どうして、あの子は私たち家族にも胸の内を見せてくれなくなってしまったのかしら?」
母は困惑気味に顔を顰める。原因が思い浮かばない。そんな顔をしている。
それはそうだろう。母に否はないのだから。
僕は、目の前のグラスを手に取ると、一口啜る。そうして、喉を潤してから、言葉を続けた。
「それは……あなた方に、甘えていたからです」
「どういうこと? 息子は全然、我儘なんて言わないわよ。我儘どころか何も言わないわ……」
母は悲しそうに眼を伏せる。
僕の知らないところで、母はこんな顔をして、僕のことを気に病んでいたのかと思うと、胸が痛くなる。
ごめんね。母さん。今から、僕の胸の内を話すよ。
「何も言わない。それこそが、甘えです。人は、自分で行動を起こし、自分から気持ちを口にしなければ、相手との意思疎通は図れません。それなのに、人見知りを理由に、自分の殻に閉じこもり、自分からは何も行動せず、そのくせ、相手には、気づいてほしい、分ってほしいと望むのは、我儘でしょう」
僕の言葉に、母は伏せていた眼を上げ、僕を見る。
「ずいぶんと手厳しい意見ね」
「そうでしょうか? 僕は、ようやくそのことに気が付いたのです。相手に甘えること、自分の言葉で、相手に思いを伝えることの大切さを。それをしないがために、相手とすれ違ってしまうということに。それができるのは、その時だけなんです。どんなに悔やんでも、過ぎてしまった時間は戻せない。あの時、本当はああして欲しかったのにと、後から思っても不満は胸の中に燻り続け、解消はされない。溜まっていく一方だ。それよりも、例え、それが自分に都合の良すぎる甘えた言い分だったとしても、思いを口に出して、相手と共有や衝突した方が、きっと胸の中に不満は残らない。そうしていれば、きっとあなたも、ここまで息子さんのことを気に病むことはなかったはず」
一息に胸の内の言葉を吐き出した僕は、そこで一旦、言葉を区切ると、お茶で口を潤す。その隙に母が、少し、きつい口調で詰め寄って来た。
「それは、あなたが、自分の意見をしっかりと言えるからこその意見でしょ!」
僕は、無言で母を見つめる。




