4.とうもろこし色のヒカリの中で
4ー16
僕は、手に持ったままになっていたカップへと視線を落とす。喉を潤すために無意識に飲んでいたのか、カップの中は空になっていた。
「……あの、頂きます」
僕の言葉に、母は頷くと、自分の食器と僕の分の食器を一度、キッチンへと片付ける。
一人になった隙に、僕は、息を長く吐き出した。しかし、スッキリしない。なんだか、胸に重石を入れられたみたいに、胸が詰まって苦しかった。
母の言葉を思い出す。
自分でも忘れていた、小さな頃の甘いはずの思い出。冥界区に来て、小鬼に指摘されるまで、完全に忘れていた苦い出来事。
そんな些細な日常を母は覚えていて、気に病んでいる。
確かに僕は、いつの間にか人と関わるの事が億劫になり、一人の殻に閉じこもって、本心を誰にも見せなくなった。
でも、そのきっかけが、母の言う、「シュークリーム盗み食い事件」に端を発するかと言われたら、それは違うような気がした。
事実、僕は、盗み食いをしたことも、母に叱られたことさえも、忘れていたのだから。
僕は、極度の人見知りを言い訳に、家族にも、好きな人にさえも、背を向けていただけだ。
今なら分かる。両親たちが何も言ってこないのをいいことに、好きなだけ自分の殻に閉じこもっていたくせに、誰も自分なんて相手にしないと卑屈になっていただけだと。
僕は甘えていたのだ。殻に閉じこもっていれば、いつか誰が気にかけてくれるのではないかと。それでも、周りの人たちが僕の望む通りに自分に目を向けてくれないと、自分から相手を遠ざけた。
自分から動かなければ、相手も動かないのに。自分から気持ちを伝えなければ、相手には伝わらないのに。
僕は、ただの天邪鬼だった。母が気に病むことなど何もない。
自分の自己中心的な態度が、まざまざと思い出され、苦しくなる。
少しでもその苦しさから逃れたいと、目を瞑った。しかし、苦悩は、頭の中をぐるぐると廻り、思わず眉間に皺が寄る。
「ちょっと、どうしたの? 険しい顔をして。どこか痛い?」
黄金色の液体が注がれたグラスを僕の前に置きながら、母が心配そうに僕の顔を覗き込む。
「い、いえ……なんでも……」
「そお? 今度は、オクスス茶にしてみたわ。飲んでみて」
「オクスス……?」
「とうもろこしのお茶よ。韓国で人気があるの。ノンカフェインなのよ。最近の私のお気に入り」
胸の重石を押し流したくて、グラスを手にすると、一気に喉の奥へと流し込む。




