4.とうもろこし色のヒカリの中で
4ー13
母は、顔の前で手を合わせて、ちいさく「いただきます」というと、シュークリームを手に持ち、大きな口を開けて、豪快にかぶりついた。
僕の目の前にいるのは、確かに僕のよく知った母のはずだった。しかし、こんな風に豪快に物を食べる母を、僕は知らない。
よくよく考えてみると、母とシュークリームという構図を、僕は、初めて目にしている気がする。
僕の中では、シュークリームと結びつくのは、やはり弟の保なのだ。
ぼんやりと母の食べっぷりを見ていると、あっという間にシュークリームを平らげて、カモミールティーのカップへと手を伸ばす母と目が合った。
「あら? シュークリームは、お嫌いだったかしら?」
「あ……、いえ……」
「だったら、遠慮せずに食べちゃって。1つだけ残っても、困っちゃうの」
「えっ?」
「うちね、息子が2人いるのよ。だから、1つだと……ね?」
「……確かに……あの、では、頂きます」
僕は、母に軽く頭を下げてから、シュークリームへと手を伸ばした。そんな僕を母は満足そうに見ながら、カモミールティーを啜る。
久しぶりに口にしたシュークリームは、バニラビンズの風味がしっかりとしていて、濃厚な甘さが口いっぱいに広がり、ひととき、僕は幸福感に包まれているような気がした。
4口ほどで、幸福感を平らげてしまうと、カモミールティーを一口啜る。爽やかな香りが、口の中をサッパリと洗い流していく。
コクリとカモミールティーを飲み下し、ホゥと一息つく。
それを見ていた母が、クスリと笑った。
「あの……?」
「ああ。ごめんなさい。あんまり美味しそうに食べるものだから、つい……ね」
「……あの……ごちそうさまでした」
「いえいえ。お粗末さま。って、買ってきた物だけどね。うふふ」
母は、楽しそうに笑い、そして、カップを口へと近づける。
母が僕といて、楽しそうにしているところを初めて見た。いや、そもそも、母と二人きりの時間なんてこれまでにあっただろうか。
僕は、なんとなく、もう少し、母と話がしてみたくなった。
「あの……食べてしまってから言うのは、あれなのですが……」
「何かしら?」
母は、カップをソーサーに置くと、まじまじと僕の顔を見つめる。
「あの、シュークリームですが……」
「うん?」
「二等分にするということでは、ダメだったのでしょうか?」
「えっ?」
母は、小首を傾げたまま、しばし固まってしまった。




