4.とうもろこし色のヒカリの中で
4ー10
母の勢いに抵抗すべく、僕は、腕を引っ張られながらも、必死にもがく。そんな僕を、母は容赦なく叱り飛ばす。
「いい加減にしなさい! 何があったか知らないけれど、命を粗末にして言い訳がないでしょ! こんなことをして、親御さんが悲しむとは思わないのっ!」
「え?」
母の言葉に、僕は、抵抗していた力が一気に抜ける。
必死の形相で僕の腕を引っ張る母の横顔を、僕は、ポカンと見つめる。この物言いは、まさか、母は何か勘違いをしているのではないだろうか。
僕が抵抗するのをやめたのをいいことに、母は、有無を言わさぬ勢いで、土手の上へと僕を追い立てる。
母に急かされて、土手の上まで戻ると、その光景を片眉を上げて見ていた事務官小野と視線がぶつかった。
無表情がトーレドマークの彼が、ニヤリと笑ったような気がした。
不意に、母に世話を焼かれているところを友達に見られて、恥ずかしくなったような、そんな羞恥を感じて、僕は、事務官の視線から、パッと顔を背けた。
僕を安全地帯へと導いた母は、手にしていた買い物袋を、地面へと下ろすと、膝に両手をついて、息を整えながら、僕に話しかけてきた。
「どうしてあんなことするの?」
そこまで言って、荒い息を整えるかのように、母は大きく一つ息を吐き出した。
そんな母に向けて、僕は、口を開く。
「あの……。もしかして、何か勘違いしてたり……?」
何をと問いたげな視線を向けてくる母に、僕は、思い切って事実を告げる。
「もしかしてだけど、……僕が川へ入って、その……自ら命を絶つとか、そんな風に思ってる?」
僕の問いかけに、今度は、母がポカンと僕の顔を見つめる。答えは無くとも、その表情が全てを物語っていた。
「別に、僕は、自殺とか考えてないよ」
「え……だって……」
「ただ、川の流れを眺めていただけ。それ以外にあそこに居た理由はないよ」
「えっ? ……え〜〜っ??」
数秒の間を空けて、母の絶叫が辺りに響いた。
その声を引き金にしたわけではないと思うが、僕たちの頭上に重く広がった黒い雲から、ポツポツと雫が落ち始める。
「もしかして、私ってば、所謂、お節介しちゃってたり……する?」
息があがっているからか、それとも他の理由でか、顔を赤くした母の声は、尻すぼみに消えていく。
「でも、こうやって雨も降ってきたことだし、結果的には、声をかけてもらえて良かったけど……」
そう言って、僕は空を仰ぎ見る。間も無く本降りになりそうだ。




