4.とうもろこし色のヒカリの中で
4ー9
事務官小野は、相変わらず、腕を組み、土手の上で仁王立ちになっている。
そんな彼の目の前を、一人の女の人が横切り、慌てたように、土手を駆け下り始めた。何やら、必死に叫んでいるようだ。
なんだろうと思い、その女の人を注視していると、買い物帰りなのか、ふっくらと膨らんだ薄手の袋を肘にかけ、土手の草や石に足を取られながら、懸命にこちらへ駆けてくる。
まだ距離があるというのに、僕は、その人が誰であるかに気がついた。
「……母さん……」
僕の呟きを拾い上げるように、僕の足元で小鬼が立ち上がる気配を感じたが、僕は、こちらへ向かってくる母親から目が離せないでいる。
その場で立ち尽くす僕のもとへ、買い物袋をぶら下げた母が、息を切らしながらやってきた。
突然の出来事に、何を言えば良いのか分からず、僕はただ、肩で大きく息をしている母親の姿を、両目に映していた。
そんな僕に見つめられながら、母は、息を整えることもせず、突然、僕を怒鳴りつける。
「あなた、こんな所で何をしているのっ!」
「えっ?」
いきなり目の前に現れた母親に、意味も分からず怒鳴りつけられて、僕の思考は、瞬時にショートした。
しかし、そんな僕を引き戻すかのように、僕の足元にいる小鬼が、僕の右脹脛を、チョンチョンと突く。
「古森さん〜。このご婦人は、お母上なのですか〜?」
「あ? ああ」
「そうですかぁ〜。しかし、お母上は、何故、こんなにも怒っているのでしょう〜?」
「さあ? なんでだろう?」
小鬼の疑問に、僕も首を捻る。二人して訳がわからず首を捻っていると、また、母の雷が落ちた。
「早く川から離れなさい!」
「なんでっ!?」
高圧的で理不尽な母の態度に、つい僕も強くでる。しかし、母は、そんなことはお構いなしに、必死に捲し立てながら、僕の手首を掴む。
「もうすぐ雨が降るのよ。この川はすぐに増水してしまうのに、それを分かっていて、こんな危ないところにいるの?」
「えっ?」
母の言葉に、僕は、空を仰ぎ見る。確かに、今にも雨が降り出しそうな黒い雲が、空を覆い始めていた。
空模様に、なるほどと納得しつつも、僕を川岸から引き剥がそうとするかのように、強い力で僕の腕を引っ張る母に、抗議の声を上げる。
「痛い! 離して!」
そんな声を無視して、母は僕を引きずるようにして、土手の上を目指して、歩き始めた。




