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1.あんず色の世界で

1-6

「例えば〜、現世で法律を完璧に守った人がいます〜。一切の違反行為をしなかったその人ですら、地獄行きはほぼ確定です〜」

「そ、そんな、まさか……」

「地獄行きの基準、それは、魂が守るべき五つの戒律、五戒を現世で破ったか否かなのです〜」

「そ、その五戒と言うのは?」

不殺生(ふせっしょう)不妄語(ふもうご)不倫盗(ふちゅうとう)不邪婬(ふじゃいん)不飲酒(ふおんじゅ)です〜」

「ふ……何?」


 耳馴染みのない単語を一気に浴びせられた僕は、眼を白黒とさせる。そんな僕を呆れたように見上げながら、小鬼は言葉を続ける。


「五戒は、どれか一つを破っただけでアウト。地獄行きです〜」

「ええっ!?」


 五戒を理解し切れていないのに、「アウト」と言う単語に妙に焦る僕に向かって、小鬼はまるで問診でもするかのように、淡々と質問を始めた。


「え〜、では、古森さんに質問です〜。まずは、不飲酒。これまでにお酒を飲んだことはありますか? はいか、いいえでお答えください〜」

「い、いいえ」

「そうですね〜。まだ、十九歳。法律で許されていませんね〜」

「う、うん」

「では、次〜。不邪婬。夫婦以外の人と肉体関係を持ったことはありますか〜?」

「いいえっ!!」

「ですよね〜。何せまだ、チェリーボーイですもんね〜」


 チェリーボーイらしく、肉体関係と言う単語に顔を赤くしながら力強く発した僕の回答を、小鬼はしれっと流す。


「おいっ!!」

「あれ〜? 違いました〜?」

「い、いや……違わ……ないけど……」

「では、次に行きましょう〜。次は、ええと?あ、不倫盗ですね。盗みをしたことはありますか〜?」

「いいえ」

「捕まっちゃいますもんね〜。では、次。不妄語。嘘をついたことはありますか〜?」

「……ッはぃ……」


 僕は小さく答えた。なるほど、そう言うことか。僕は五戒とやらを破っていたようだ。小さなウソ。些細なウソ。どうしようもないウソなら、これまでにいくらでもついてきた。項垂れる僕に向かって、小鬼はタブレットらしき端末を見ながら補足説明をしてくる。


「そうですね〜。古森さんのはじめての嘘は、五歳の時です〜。冷蔵庫にあったシュークリームを勝手に食べておきながら、お母上に食べていないと言いました〜」

「ハハッ、何だそれ。ガキだな」


 渇いた笑いが口から溢れる。しかし、顔は強張り上手く笑えなかった。小鬼は、慰めにならない言葉を軽くかけてくれる。


「ほとんどの人はこの不妄語をクリアされませんので、お気になさることはありませんよ〜」

「……そう、なんだ……」

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