4.とうもろこし色のヒカリの中で
4ー6
「ああ。はい。大丈夫です」
僕は、立ち上がると、事務官に向かってしっかりと答えた。
事務官小野は、僕の中の決意を確認するかのように、鋭い視線で、僕を見据える。しばらくして、一つ小さく頷いた。
「では、始める」
そう言うと、事務官は両手を軽く上げ、それぞれ左右の指を1度ずつパチンパチンと鳴らした。
彼の行動に、僕は目を瞬かせる。何度目かの瞬きの後、僕は、キョロキョロと周囲を見廻すことになった。
いつの間にか、僕は、川幅が広く、ゆったりとした流れの川を見下ろすように、土手の上に立っていた。
「えっと……ここは?」
誰に聞くともなしに、疑問が口を突いて出る。
そんな僕の声を、僕の足元にいる小鬼が、いつものように丁寧に拾い上げる。
「体感ルーム内です〜」
「えっ?」
思わず小鬼を見下ろす。
「何で? まだ転送準備なんてしていなかったのに?」
僕の驚き顔に、小鬼は、さも自分の手柄のように胸を張って答える。
「もちろん、小野さまのお力です〜。小野さまは、すごいお方なので、瞬時に移動出来てしまうのですよ〜」
「え〜っと、じゃあ、今までの転送準備って……」
僕の不用意な発言に、小鬼は、途端にショボくれる。
「僕は、まだまだ経験不足なのです〜。でも、今までのやり方が正規ルートなんですよ〜」
唇を尖らせながら、ボソボソと言い訳がましく言葉を並べる小鬼は、やはり、かわいい。こんな弟がいたら、溺愛していたかもしれない。
少しいじけていそうな小鬼を、微笑ましい気持ちで見ながら、僕は、笑って話を流す。
「と言うことは、事務官さんが凄すぎるってことだね」
「そうなのです! 小野さまは、凄いのです!」
僕の言葉に、小鬼は、一瞬で目をキラキラとさせる。
表情がコロコロと変わって、本当に小鬼を見ていると飽きない。
一頻り小鬼との会話を楽しんだ後、僕は、少し離れた場所へと視線を移す。
いつもは、小鬼と二人だけの転送だが、今回は、僕をここへ送り届けた張本人も一緒のようだ。
「今回は、事務官さんも一緒にいるんですか?」
「ああ。最後だからな」
事務官小野は、ひどくつまらなさそうに、肯定した。
「えっと、それで、僕はどうすれば?」
いつもはいない事務官に見られていると、それだけで、妙な緊張感がある。
そんな僕の気持ちなど知る由もなく、事務官は、いつも通り事務的だった。
「いつも通りで良い。私は、少し離れた所から、観察させてもらおう。それでは、始めてくれ」




