4.とうもろこし色のヒカリの中で
4ー5
「最後まで研修をやり終えたからと言って、そなたの思う最悪の事態が免れるとは、言い切れぬ。しかし、認証印が足りぬからと言って、紋切型に決定を下すこともせぬ。それを踏まえたうえで、今一度、答えよ。そなたは、本日の研修を受ける意思があるのか?」
事務官小野は、眼鏡の奥から僕をしっかりと見据えて、問う。
僕は、心を落ち着けて考える。
僕がこれまで、このよく分からない『ありがとう体感プログラム』とやらを受けてきたのは、最恐レベルの地獄行きを回避するためだ。
4回目は、失敗してしまったが、まだ巻き返せるかもしれないと、事務官は遠回しに言っているのだろう。
だったら、答えはもう決まっている。
「はい。あります!」
僕は、事務官の眼鏡の奥の目をしっかりと捉えて、頷いた。
僕が答えを出すのを待っていたのか、それまで静かにしていた小鬼が、事務官の後ろから、チラリと顔を覗かせる。
「……古森さん?」
話しかけづらそうに、事務官の足元に少し隠れるように身を潜め、オロオロとしている小鬼と視線を合わせるため、僕は、床に膝をつく。
「小鬼、さっきは、ごめん。というか、毎回八つ当たりしてごめん」
僕は、膝をついたまま、小鬼に向かって頭を下げた。
すると小鬼は、事務官の蔭からパッと飛び出してきて、テテテと僕に駆け寄る。そして、僕の手を取ると、いつもよりも、少し控えめな笑顔と声量で、僕に笑い掛けてくる。
「古森さん〜。いつもの古森さんに戻られて良かったです〜。今日で最後ですからね〜。がんばりましょうね〜」
そんなことを言う小鬼を間近で見れば、少し涙ぐんでいる。
なんとも大袈裟なやつだ。
そんなことを思いつつも、親身になってくれている小鬼の気持ちが嬉しくて、僕も思わず涙ぐむ。
「古森さん〜。何泣いているんですか〜? どこか痛いんですか〜?」
パチクリとした目を潤ませながら、見当違いな質問をしてくる小鬼に、僕は下手くそな笑顔で応える。
「そう言う小鬼だって、何で泣いてるんだよ?」
僕たちは、お互いに見つめ合い、全力の笑みを交わした。
いつの間にか僕たちの間に生まれていた絆みたいなものを、お互いに無言で確認し合っていると、咳払いが一つ、僕たちの間に放たれた。
「そろそろ良いか? 本日は最終日のため、一刻も早く研修を終わらせたい」
声のした方へ視線を向けると、事務官小野が、眼鏡のフレームの真ん中を細長い指で押し上げて、眼鏡の位置を直していた。




