4.とうもろこし色のヒカリの中で
4ー2
何も行動を起こさず、ただ座っていただけなので、自業自得と言ってしまえば、それまでだ。しかし、僕は、誰にも声を掛けられないという、現世に生きていた時と同じ状況に、改めて、打ちのめされてしまったのだ。
いじけて研修から戻った僕に、事務官小野は冷ややかな視線を向けただけで、何も言わなかった。
彼は、その日の研修がうまく行われたかどうかを確認するのが仕事であって、研修のクリア如何は、気にする事柄ではないのかもしれない。研修が達成されなければ、最恐レベル行きを決定するだけなのだから。
ただ、小鬼は、部屋の淀んだ空気を感じて、オロオロとしていた。彼だって、冥界区役所の職員なのだから、小野のように、淡白に仕事に向き合うべき立場なのだろうけれど、彼はまだ淡白にはなりきれないようだ。「明日は、頑張りましょう〜」とぎこちない笑顔を貼り付け、僕の手を強く握り、励ましの声を掛けてくれた。
彼の思いに応えたいし、僕だって、最恐レベルの地獄は回避したい。
しかし、既に結果は出てしまっている。残されたあと1度の研修をたとえ無事にクリア出来たとしても、今回の結果が変わるわけではない。
これ以上、ここにいて、この『ありがとう体感プログラム』という、訳の分からないものを続ける意味はあるのだろうか。
こんな投げやりな態度は良くないと思う一方、これが本来の僕なのだと、否定的な自分を受け入れる。そして、後ろ向きな思考にどんどんと呑み込まれる。
悪循環どころか、どんどんと、出口の見えない、暗闇へと嵌っていく。そして、自分が、その暗闇に嵌っていることさえ、いつしか感じなくなった頃、ピーンポーンと玄関チャイムのような音が、僕の耳に微かに届いた。
虚な目を虚空に向けると、小鬼と事務官小野が、パッと室内に現れた。
「古森さん〜、おはようございます〜」
小鬼は、いつもより少し声のトーンを落としつつ、ペコリと頭を下げる。
「ああ。うん」
僕も、かなりのローテンションでそれに応えた。
そんな覇気のない僕の様子に、事務官小野は眉間に皺を寄せる。
「なんだ。まだ、そんな辛気臭いツラをしているのか。そんなことでは、本日分の研修は、熟せないのではないか?」
事務官小野の言葉は、僕の耳を殆ど刺激しない。
「はぁ。そうですね」
そんな全くやる気のない声を出す僕の側へ、小鬼は、パタパタと掛けてきて、先ほど、別れ際にしたように、僕の手を強く握った。




