4.とうもろこし色のヒカリの中で
4ー1
その後、僕は、3回目の研修も、危なげなくクリアした。そして、僕の右膝には、焼印がもう一つ増えた。1つ目と2つ目の傷の間の並行線上、最初の傷の左斜め下に、新たな傷は作られた。
ベッドに腰掛け、足を投げ出して膝を見ると、焼鏝によって刻まれた傷は、随分前に、理科の授業で習った、夏の大三角形と呼ばれる星座のような位置どりをしていた。
そして僕は、先ほど、4度目の研修を終えて、毎度のように、冥界区役所所有の宿泊所へと戻ってきた。
しかし、恐怖の焼鏝は、僕の右膝目掛けて振るわれる事はなく、つい今しがた、小鬼と事務官小野は、区役所へ戻るために、姿を消した。
白一色の部屋に一人取り残された僕は、呆然と右膝の焼印を見やる。
なぜ、4つ目の焼印がされなかったのか。それは、単に、僕が時間内に、4回目の研修内容をクリア出来なかったからである。
3度の研修を経て、研修自体に慣れつつあった僕は、どこか高を括っていた。今回も、なんだかんだで、クリア出来ると内心では思っていたのだ。
そして、研修が始まってみれば、想定通り、僕の見知った街並みが目の前に広がっていた。
特に、目的もなく、近所の商店街を彷徨いてみたのだが、皆が他人に無関心だからか、これまでの様な、イベントらしい出来事にはなかなか遭遇しない。
待てど暮らせど、誰の目にも留まらない状況に、やはり、僕は誰にも見えていないのではないかという、寂しい考えが、心に纏わりついて離れなくなった。
後ろ向きな考えに縛られてしまった僕は、それから、全く行動的になれず、商店街唯一のファストフード店の2階の片隅で、存在を消すかの如く、静かに座って時を過ごした。
しかし、時間は無限にあるわけではなかった。小鬼たち、冥界区役所職員の業務終了時間が迫り、毎度の如く僕に帯同していた小鬼が、ソワソワとしだす。
これまで、研修にタイムリミットがあるなどと意識していなかったので、小鬼に促されて、僕は、ようやく重い腰を上げた。
ファストフード店の出入口の扉を押して、店の外へと出ると、丁度入れ違いで、両手に荷物を抱えた人が店へ入ろうとしていたので、扉を押さえて、道を譲ると、すれ違いざまにお礼を言われた。
それは、終了時間ギリギリで、カウントされたが、僕から、誰かにお礼をいう事は、時間内には叶わなかった。




