3.がとーしょこら色の思い出
3-14
事務官は、例の端末で何やら確認しながら、しばらくの間、沈黙を守って、僕の回答を待っているようだった。
しかし、モジモジとしている僕に痺れを切らしてか、事務官は、唐突に、質問を終了させた。
「まぁ、良い。データ報告によると、何か、思うところがあったようだな。詳しくは、小鬼から、後ほど聞くとする」
事務官小野は、端末から目を離すと、じっと僕を見る。まるで値踏みされているようで、僕は少々居心地の悪さを感じる。
沈黙が苦しくて、こちらから、何か声をかけるべきか、と思い悩んでいると、不意に事務官が口を開く。
「古森。どうだ? 明日以降も研修は続けられそうか?」
その声は、これまで聞いてきた、事務的な硬い声とは、少し違うような気がした。こちらを気にかけている、そんな柔らかさを含んでいるような気がした。
もしかしたら、データ報告とやらから、僕の心情のあれこれを察したのだろうか。
だとしたら、やはり、冥界区の個人情報丸見え問題は、恐ろしい。
「はい。大丈夫です」
僕は、極力平静を装って、事務官に答える。
「そうか。では、明日以降も、滞りなく研修を進めるように。本日の研修は、以上とする」
いつもの事務的な声に戻り、それだけ言うと、事務官小野は指を一度鳴らし、その場でターンをして、サッと姿を消してしまった。
相変わらずの淡白さに、僕が反応出来ずにいると、いつの間にか、僕の足元へと来ていた、小鬼に声をかけられる。
「あの、古森さん〜。本日は、出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありませんでした〜」
そう言って、頭を下げる小鬼の視線になるべく近づけるように、僕は、椅子から降りて、膝をつく。
「小鬼、頭を上げて」
頭を上げた小鬼と視線を合わせて、僕は、気持ちをしっかりと伝える。
「キミが心配してくれたから、僕は、自分の気持ちときちんと向き合えたし、キミが話を聞いてくれたから、僕は、自分の至らなさに気がついたんだ。出過ぎた真似なんかじゃないよ。むしろ、心配してくれて、ありがとう」
僕は膝をついたまま、小鬼に頭を下げた。頭を下げられた小鬼は、オロオロとしている。
「や、やめてくださいよ〜」
僕は、頭を上げると、小鬼に向かってニヤッと笑う。
「小鬼、明日もよろしく」
それに応えるように、小鬼も全開の笑みを見せる。
「はい〜。本日は、お疲れ様でした〜。また明日〜」
小鬼はパチンと指を鳴らし、ターンをして姿を消した。




