3.がとーしょこら色の思い出
3-21
自分で言っていて虚しくなる。
僕は、ただ一人、想いを寄せた人にさえ、自分の気持ちを伝えることもできなかったのだ。ただ、うじうじと爪先を見つめていただけ。そんな僕が、恋愛指南とは、思い出すと何とも滑稽な話に思えた。
僕のどんよりとした空気を感じ取ったのか、隣で小鬼がオロオロとし始めた。
「あ、あの〜。古森さん? じょ、冗談ですよ〜?」
珍しく、小鬼が小声になっている。僕も、小さく頷く。
「ん。わかってる」
そう返事をしてみたものの、僕の気持ちはなかなか浮上しない。隣に、座る小鬼からは、心配そうな視線を投げられているのがわかる。
暫くの間、僕たちの間には、沈黙だけが流れていた。
やがて、元気印の小鬼には似つかわしくない、遠慮がちな声で、小鬼が口を開いた。
「あの、古森さん〜?」
「ん?」
「あの……、天使さんに……、あのお嬢さんに、古森さんのお気持ちを伝えなくてもいいのですか〜?」
僕は、沈みかけていた気持ちと一緒に、ガックリと下がっていた頭を、勢いよくあげた。
「ど、どうして、それ……」
「まあ、僕も、一応、冥界区役所の職員なので」
小鬼は、そう言いながら、首から下がる端末を少し持ち上げて見せた。
どうやら、あの端末には、パーソナルデータから、個人感情まで、様々なことがデータとして記録されているようだ。
「個人の感情までデータ化されているとか……。一体、どんな処だよ。冥界区役所っていうのは。個人情報丸見えなんだな……」
死んだ後に、個人情報もなにもないだろうとは思いながらも、自分の胸の内を見られた羞恥から、僕は非難めいた抗議をした。しかしそれは、とても脱力したものだった。
「はい〜。冥界区役所は、故人様の全てを知り、管理しています〜。しかし、だからこそ、僕たちは、故人様の尊厳を護るために、故人様に対して、踏み込み過ぎてはいけない。常に事務的でなければいけないと教えられます〜」
「じゃあ……」
「さっきの僕の発言が、古森さんのお気持ちに踏み込み過ぎていることは、承知しています〜。ですが、古森さんが、大変落ち込まれているのを、見ていたら、その……言わずにはいられませんでした。不愉快な思いをさせてしまったのでしたら、すみません〜」
小鬼は、腰掛けたまま、小さな体をくの字に曲げて、深々と頭を下げた。




