3.がとーしょこら色の思い出
3-20
咲は、笑顔と彼女の優しさの証である水だけを残して、帰って行った。
もう見えなくなってしまった、咲の影を追い求めて、未練がましい僕は、公園の出口から目を離せずにいる。
そんな僕に向けて、小鬼が遠慮がちに声をかけてきた。
「あの~、古森さん〜。お疲れ様でした〜。本日分の研修も無事、クリアされましたね~」
「ああ。うん」
僕は、心ここにあらずを、体現するかのように、呆けた答えを返す。
それを見かねたのか、小鬼は、僕の右太腿をゆさゆさと揺さぶりながら、お得意の大きな声を出す。
「古森さん~。戻ってきてくださ~い」
「んん? 何?」
隣に腰かけて、存在を全力アピールしている小鬼に、僕は、ようやく、視線を送った。
「本日分の研修は終了しましたよ~。分かっていますか~?」
「えっ? ああ、そっか。そうだね」
この場所が、現実ではないと、頭では理解しているつもりだったが、心が受け入れていなかったのだろうか。現世と、この不思議な空間を、混同して見ていた僕は、慌てて相槌を打つ。
「ずいぶん熱心に、お話をされていましたね~。あの天使さんは、古森さんにとって、特別な方なのですか~?」
「ん? まぁ、幼馴染だからね」
小鬼の言葉に、僕は、ポリポリと頬を掻く。途中から饒舌になっていたことは、自分でも自覚がある分、しっかりと指摘をされると、なんだか、恥ずかしかった。
「それだけですか~?」
「な、なにが?」
足をプラプラとさせながら、含み笑いを顔に張り付けた小鬼が、僕を覗き込む。僕は、そのニヤニヤとした視線から逃れるように、明後日の方へ視線を彷徨わせた。
「まさか、古森さんが、恋愛マスターだとは知りませんでした」
耳を疑う発言に、僕は逃れた視線を、勢いよく戻す。
「はぁ? 何言ってんの?」
「あれ~。違うんですか~? 天使さんに、いろいろとご指南されていたようなので、僕はてっきりマスターなのかと」
「ちがっ……」
一体、僕の何を見ていたら、恋愛マスターなどという発想に繋がるのやら。
小鬼の言葉に、僕はガックリと肩を落とす。
「人と関わることを避けていた僕に、恋愛経験なんてあるわけないだろ」
「しかし、先ほど、天使さんに、アレコレとご指導されていたではありませんか?」
僕の脱力した否定の言葉に、小鬼はキョトン顔で返す。
「あれは、現世で、咲と保が付き合っていることを知っていたから、話せただけだよ。チェリーの僕には、恋愛スキルなんて皆無……」




