3.がとーしょこら色の思い出
3-17
僕は、予想に反した答えに驚いた。
てっきり、「やっぱり渡しに行く」と言い、紙皿の上のガトーショコラ は回収されるのだと思っていた。
呆然と咲を見つめると、あの華やかな笑顔全開で、頷いた。
「いいんです! 食べちゃいましょう」
「どうして? 今から、もう一度渡しに行けばいいじゃない?」
「だって……」
咲は、華やかな笑顔の中にいたずらっぽさを滲ませる。
「だって、お兄さんに食べてもらいたいんです!」
僕は、返す言葉が見つからず、目をパチクリとさせることしかできない。そんな僕に向かって、咲は、言葉をつづけた。
「私、お兄さんの言葉に勇気づけられました。今回のことは、もしかしたらお兄さんの言う通り、なのかもしれない……そうだったらいいなと思います。でも、今回は、渡すのは、見送ります」
「なぜ?」
「だって、誰だかわからないけれど、私よりも先に渡した子の、ガートショコラの方が、きっと美味しいから。自信をなくした物を渡すくらいなら、次回、また自信をもってチャレンジします」
咲は、目を爛々と輝かせ、不敵に笑って見せる。
咲の強気な一面を見て、これまで僕は、咲のほんの一部しか見てこなかったのかもしれないと思った。僕の知っている咲は、いつだっておっとりとした女の子だった。こんな、強気な咲は見たことがなかったけれど、まっすぐ目標を定めて前へ進もうとする姿は、とても魅力的だと思った。
僕の知っている咲と、今、目の前にいる咲が、同じでも、同じじゃなくても、彼女はやっぱり魅力的な人だ。
そんなことを思いながら、咲をまじまじと見つめていると、咲はニッと笑って、フォークを手にする。
「さぁ、食べましょう! コレは、素敵な助言をくれた、お兄さんへのお礼です」
「う、うん」
咲につられて、僕もフォークを手にすると、紙皿に置かれたガトーショコラを小さくカットし、口の中へ運ぶ。
途端に、カカオの香りと、ちょっと強めのほろ苦さが口いっぱいに広がった。
「う、にっ、がー」
咲は、顔をしかめる。確かに、ビターというか、香ばしい。たぶん、ちょっと焦がしたのだろう。でも、僕は平気な顔で食べ進める。
「そお? ビターで大人向けな感じだよ」
「お兄さん……? 苦いですよ、コレ。完全に失敗です」
咲は、涙目でジトッと睨んでくる。
僕たちは暫く、黙ったまま視線を合わせて、それから同時にプッと吹き出した。
「ちょっとね。ちょっとだけ、苦いかな」
「ですよねー。あ〜あ。失敗してたか」




