3.がとーしょこら色の思い出
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もちろん二人は僕の気持ちなど知らない。
僕は、仲の良さそうな二人を、物陰からいつも見ていた。
「僕が思うに、その彼は、本心で言ったんじゃないと思うよ。友達がいた手前、恥ずかしさから出ちゃった言葉だと思うな」
ズクリとする胸の疼きを抑えながら、咲に声を掛ける。
この空間にいる保も、咲のことが好きなはずだ。
僕には、そんな核心めいた思いがあった。
ここは、黄泉の国の体感ルームとやらで、もしかしたら、現世での人間関係とは少し違うのかも知れないけれど、それでも、二人の関係だけは、変わらないような気がした。
二人の間に僕が入る隙間なんてない。僕は所詮、行きずりのお兄さんなんだから。
そんな僕にできる事は、僕の横でグズグズと鼻を鳴らしている、僕のかつて好きだった人を、元気付けることくらいだ。
「キミの年頃の男子なんて、恋愛を冷やかすヤツは多いし、友人に冷やかされるのがイヤで、つい心にもない事を言ってしまうヤツもいるから、気にする事ないよ」
「そ、そうかな?」
「うん。絶対に、本心なんかじゃない! 僕が保証する」
僕は、勤めて明るく宣言する。
そんな僕を見て、咲は、一度大きく鼻を啜ると、大きな口を開けて、笑い出した。
「アハハハ……ウフフ……」
「な、何?」
「フフ。だって、お兄さん、私たちのこと、何も知らないくせに、まるで知ってるみたいに自信満々だから、つい、可笑しくて」
「確かに」
含み笑いが治まりそうもない咲につられて、僕も、咲を見ながら、自然と笑った。
しかし、そんな状況に、僕は、微かな違和感を覚える。
咲は、もっとおっとりと話していた気がする。咲は、いつから、こんな、さっぱりとした話し方をしていたのだろうか。そして、僕は、いつから、咲の爪先を見ずに話をしていたのだろうか。
僕らは、自身の変化に気が付かないほど自然に、一緒の時を過ごしていた。
それは、全然窮屈なことではなくて、むしろ、とても心地好い気がした。
生きている間に、もっと、咲と話をすればよかった。爪先を見つめるだけでなく、もっと咲の顔を見ればよかった。
僕の中に、薄らと悔いが広がる。
そんな思いに気が付かないフリをして、僕は、咲に最終確認をする。
「それで、この、上手く作れたケーキは、どうする? やっぱり《《処分》》する?」
僕の問いかけに、咲は、眉根を寄せて、しばらく考え込む。そして、納得いく答えを出したようだった。
「はい! 処分してください!」
「えっ!? いいの?」




