3.がとーしょこら色の思い出
3-14
やはり、そうか。
咲の態度に、僕は一人得心した。咲が、このケーキを渡そうと思っていた相手は、たぶん、アイツだろう。
このケーキを僕が食べることを、《《処分》》だと、咲は言った。つまり、咲は、このケーキの存在を無くしてしまいたいのだ。しかし、せっかくの努力を無駄にはしたくないから、捨てる事ができない。だから、僕なんかに、食べてくれと言うのだろう。
僕が、紙皿の上のケーキをボンヤリと見ながら、咲の心を推測していると、隣に座る咲は、かなり上ずった声を出した。
「い、嫌だなぁ、お兄さん。べ、別に食べてもらいたい人なんて、いないよ。全然。もう、何、言っちゃってんの?」
「違っていたなら、ごめん。でも、昔から、女の子が、がんばってスイーツを作る時は、食べてもらいたい人がいるからだと、相場は決まっているんだよね」
特に、キミの場合はね。
そう、心の中で言葉を足すと、僕は、ゆっくりと咲の方へ顔を向ける。そのまま黙って、視線を合わせる。
しばらく、黙って、咲と見つめあっていると、咲は、根負けしたようだった。足を前に投げ出し、天を仰ぎながら、少し悲しそうな声を出す。
「あーあ。そいうい事は、気づいても言っちゃダメなやつですよ。お兄さん?」
「うん。そうだね。ごめん」
「……でも、当たりです」
咲は、上を向いたまま、小さな声でつぶやいた。
その咲の小さな呟きは、僕の心に大きくのし掛かる。僕の心を押し潰さんとする、小さくて大きいその呟きを、僕は咲に気づかれないように、ため息と一緒に吐き出した。
それから、何でもない風を装って、話を続けた。
「好きな人だろ? 食べてもらいたい人って?」
「……そう……ですね」
「渡さなくていいの?」
「……渡せなかったん……です」
咲は、見上げていた顔を俯ける。そして、手にしている紙皿の両端をギュッと握りしめた。
「どうして?」
僕は、極力、感情を排した声を出す。
「……だって、迷惑だって……」
咲は鼻声になるのを耐えるように、声を絞り出す。
「っ!! アイツ、そんな事言ったの?」
僕は思わず声を荒げる。そんな僕にびっくりしたのか、咲が顔を上げた。
「えっ?」
「あ〜、いや〜、何でもない」
僕は一つ咳払いをする。
コレで誤魔化せるだろうか。冷や冷やしながら、咲の様子を伺うが、咲は、僕の声に驚いただけのようで、僕が、声を荒げたことについては、気に留めていないようだった。




