3.がとーしょこら色の思い出
3-13
咲は可笑しそうに、僕を覗き込む。僕は、首を傾げるフリをして、まっすぐ射抜いてくる咲の視線を避けた。
「そ、そう?」
「まぁ、私たち、知らない者同士ですからねぇ。用心するに越したこと、ありませんね。実際、そんな、どうしようもないイタズラをする人、私、知っていますし……」
咲の声が少しだけ重たくなったような気がした。
僕は、そんな咲をこっそりと盗み見る。咲の視線は、僕から外され、遠くの方へ投げられていた。
僕も、そんな、どうしようもないイタズラをする奴を知っている。
咲が今思い描く相手は、おそらくアイツだろう。
先ほどよりも沈んだ空気に耐えられなくなった僕は、脇に置かれたままになっていたケーキの箱に手を伸ばす。
「へ、変なこと言って、本当にごめん。き、キミがいいのなら、コレは有り難く頂くよ」
そう言ったはいいものの、箱を開けるのに、僕がもたついていると、僕の手に咲の手が重ねられた。
ハッとして咲の顔を見ると、クスッと笑う。
「お兄さん、不器用なんですか? 私がやります」
そう言って、咲は僕の手から、ケーキの箱を取り上げると、一緒に持ってきていたらしい紙皿に手早く盛り付ける。
「はい。どうぞ」
咲に手渡された、紙皿には、作りたてだというガトーショコラ が1カット載っている。
僕はしばらくそれを眺めてから、咲の核心に迫るべく口を開いた。
「お、美味しそうだね」
「ふふ。そうですか? ビターチョコで作ってありますから、甘さ控えめですよ」
「そ、そうなんだ。あ、あのさ、よくわからないけれど、ケーキって、作るの大変なんじゃない?」
咲は、自分の分を紙皿に取り分けながら、苦笑する。
「そうですね。実は、私には、結構ハードル高めでした」
咲は、可愛い見た目をしているためか、料理好き、料理上手というイメージを持たれやすいのだが、実は、なかなかの料理下手なのだ。
そんな咲が調理実習とはいえ、ケーキを作って、持ち帰ってきた。失敗していたとしたら、持って帰ってくるはずがない。僕は、咲がケーキを持ち帰ってきた理由を推測する。
「そっか。がんばって作ったものなんだ?」
「はい! かなり、がんばりました!」
咲は、少し誇らしそうに胸を張る。
「そっか。かなり、頑張ったんだ。……で、でもさ、だったら、本当は、食べてもらいたい人が、他にいたんじゃないの?」
僕の言葉に、紙皿を持つ咲の指先が、ビクンと揺れた。




