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前編

ご要望にお応えして。

 泉カナメは生徒会室の窓からぼんやりと外を見ていた。桜の季節である。入学式は明日、生徒会長としてスピーチをしなくてはならない。それはそれとして、先日の全校集会のこと。

「なんで女子まで喜んでたのかしら」

 ぽつりと呟く。

 少し前まで男子を差別するような校則を作っては、批判があろうが、生徒会長権限で押し通していたが、とある男子生徒に反発されてからは新しい校則を作るのは控えている。そして先日、他メンバーの後押しもあり、いくつかの校則を撤廃した。


◯女子更衣室、また女子トイレの入り口に必要以上に近づくのは禁止。


 ○女子と男子の机は必ず三十センチ離すこと。


 ○男子が女子に触れた場合、違反なので反省文を書くこと。


 などなど、細かいものだ。

 そして、男子に対して謝罪文を掲載したことで男子からの支持率が少し回復した。女子も合わせると五パーセントほど上昇したことになる。ちなみに新聞部調べ。

「男子なんて……あ」

 そう愚痴を言おうとしてとどまる。因縁の男子生徒、菅谷奏介から言われたのだ。嫌なら女子高へ行け、と。何も言えなかった。

「……わたしはどうして、この学校を選んだのかしら」

「なんとなくで進路を選んで、なんとなく生徒会長になったんですか?」

 はっとして顔を上げると、呆れ顔の菅谷奏介が立っていた。手には風紀委員の報告書を持っている。

「! なんで」

「ノックしたし、何度も声かけましたよ」

「……そう」

 つい、じっと見つめてしまう。

「会うたびに珍しいものを観察するような目を向けるのやめてもらえませんか?」

 奏介はそう言って、書類を生徒会長の机に置く。

「別にそんな風に見てないわ。男子なんて目に入れたくないもの」

 カナメはプイッと視線をそらす。

「そうですか」

 奏介は息を吐いて、

「まぁでも、下らない校則を撤廃したのはよかったですよ。生徒の気持ち、考えられるようになりました?」

「……努力はしてるわ。ねえ、菅谷君」

「なんです?」

「この前の全校集会の時、男子に関する校則を撤廃するって話をしたら、女子も喜んでいたのよ。男子に不利な校則だったことは確かだけど、女子はなんで喜んでいたの?」

 奏介は眉を寄せて少し考え、

「あぁ、男子と女子は一緒に登下校してはいけないって校則じゃないですか? そりゃ、彼氏や気になる男子と堂々と登下校したいからでしょ」

「女子は男子と……登下校をしたいの?」

「男子というか、気になる人と一緒に帰りながら話をしたり、遊びに行ったりしたいんです」

「ちょっと何を言ってるのかわからないのだけど」

 その気持ちは理解できそうにない。

「単刀直入に聞きますけど、先輩って好きな男子とかいないんですか?」

「いるわけないでしょう?」

「でしょうね」

 奏介は窓の外へ視線を向けた。

「先輩に好きな人でも出来れば一瞬で理解できると思うんですけどね」

「……そんなの、いらないわよ。男子なんて」

「何か嫌な思い出でも?」

 よくは覚えていないのだが、小さい頃に男子に嫌がらせをされたことがあったのだ。印象が強いエピソードではないが、恐らくそれのせいだろう。

「理解できないなら仕方ないですね。どうしても無理なことはあります」

 何故だかその言葉がとても気に障った。お前は人の気持ちが分からないと言われているようで凄く悔しい。奏介に言われてから努力をしているつもりだったのに。

「……じゃあ、どうしたら好きな人が出来るの?」

 つい睨み付けてしまう。

「え? いや、そう言われても先輩の気持ちの問題ですし。」

「私の気持ち……」

 カナメはしばらく胸に手を当てる。

「あ、先輩、ほら正門のところ」

「え?」

 窓から正門を見ると男子と女子が楽しそうに喋っているのが見える。雰囲気的にカップルだろう。

「楽しそうでしょ? 好きだなと思う人と楽しく話しているとあんな感じなんですよ」

「どういう会話をしてるのかしら」

「さぁ、ここからじゃさすがに」

「あの二人の会話を聞きたいわ。一緒に来て」

「え、なんで俺」

「菅谷君が言ったのでしょう?」

 男子が好きという気持ちを理解できるようになる手がかりになるかもしれない。

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