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第22話 池造りは順調です。




「今日は水草を植えます!」


 一日経って、浴槽の水は透明になっていた。池から採ってきた水草を浴槽の土に植えると、一気に池らしくなる。


「石や流木をいれてもいいですよ」

「いやはや、庭に浴槽を埋めて池を造っちまうだなんて、お嬢様は斬新なことを考えますね」


 ミッセル氏が感心してくれるが、私もビオトープを造るのは初めてなので、実は手探りなのだ。

 上手くいけば水草がちゃんと根付いてくれるはず。


「日当たりが強すぎて水が温もりすぎたり水草が茶色くなっちゃうようなら、何か日除けを造らなくちゃいけません。だから、金魚を入れるのは少し待った方がいいですね」

「そうですか……」


 夫人も少し興味深そうに覗き込んでいる。


「三日後ぐらいに、二、三匹和金を入れてみて、元気に泳いでいるようならもう少し増やしましょう」

「お嬢様。この池、依頼されたら他の家でも造れますか?」


 ミッセル氏は商談を始めたそうでうずうずしている。


「アカリア。領地に帰るのはどれくらい先になるかな?義父上に手紙で知らせないと」

「あ、そうですね。うーん……あ、キースお兄様だけ先に帰りますか?領地経営の勉強もあるし、お忙しいですよね。私の都合で振り回しちゃって……」

「いやいやいや!アカリアだけ置いていけるもんか!!」


 キース様がぶんぶん首を横に振る。そんなに心配しなくても、私一人でも問題起こしたりとかしませんよ?


「……冗談じゃない……こんな胡散臭い商人がいるのに……」


 キース様が何やらぶつぶつ呟いているが、その時私はふっと視線を感じたような気がして屋敷の方を振り返っていた。

 ここはディオン様の部屋の窓からよく見える位置だ。ということは、こちらからも向こうが見える。窓にちらりと人影が動いたように見えた。


 ***


 庭から明るい女の子の声が聞こえてくる。目だけ窓の外に向ければ、昨日に引き続き、自分の母親も含めた数人の男女が庭で何かをやっている。

 昨日は穴を掘っていたと思ったら、そこに浴槽を埋め始めたから驚いた。いったい何をしているのか気になったが、夕食前にいつものように部屋へ来た母親に尋ねることは出来なかった。


 このままではいけないとわかっている。でも、母と会話しようとすると、喉が詰まって声が出なくなってしまうのだ。


 ディオンは胸の痛みを抱えたまま、窓の外を眺めた。

 すると、女の子がふっとこちらを向いた。

 慌てて目をそらし、物陰に隠れた。母からは男爵家の兄妹が泊まっていると聞いているが、ゴールドフィッシュ家なんてこれまでなんの付き合いもなかったはずなのに、何故男爵令嬢が庭を掘ったり浴槽を埋めたりしているんだ。

 まったく理由がわからなくて、ディオンはつい窓の外の様子を窺わずにはいられなかった。




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