偽物の聖女に国を追放された大魔王は、ボロアパートのブラウン管テレビをゲートに異世界転移を果たす 〜おにぎり美味しい! 牛乳最高! 儂は魔界よりこちらを選ぶ!〜
なろうラジオ大賞2第二十七弾。テーマは『偽物』『聖女』『大魔王』『ボロアパート』『ブラウン管』『おにぎり』『牛乳』の七つ。過積載で沈む! 沈む!
真剣にふざけてます。真面目に遊んでます。肩肘を張らずにお付き合いください。
「おじいさんの三回忌も終わって、もう本当にする事が無くなったわねぇ」
ボロアパートの一室で、老婦人は独り言ちた。
「このテレビが壊れたら、私もそろそろ……」
その時、テレビが光り出した。
「あら、お迎えかしらねぇ」
その光の中から頭に角の生えた青年が出てきた。
「ぷはっ! ここは!? 人間界か!?」
「あらあら、随分ハイカラなお迎えねぇ」
青年は老婦人に手をつく。
「突然済まぬ! 儂は異界の大魔王! 聖女に城を落とされ、此処に逃げて来た! 迷惑は承知だが匿っては貰えぬか!?」
「あら、じゃあお客様用のお布団出さないとねぇ」
「えっ」
「お腹空いてる? はい、おにぎり」
「……感謝する」
「温かいお茶と冷たい牛乳、どちらがお好き?」
「……牛乳で頼む」
「はい」
大魔王は手を合わせておにぎりを頬張る。
「……美味い」
「こんなおばぁちゃんが握ったのなんて嫌じゃない?」
「とんでもない! 温かい味がするのである!」
「良かった」
牛乳を飲み干して一息ついた大魔王は、おずおずと口を開いた。
「その、儂が言うのも何だが、こんな怪しい者を匿って良かったのか?」
「私はもういつ死んでもおかしくないおばあちゃんだもの。最期に誰かの役に立ちたいと思うのは、そんなにおかしい事じゃないでしょ?」
「う、うむ」
「良かったらゆっくりしていってねぇ」
「済まぬ。世話になる。儂に出来る事が有れば言うが良い」
「じゃあ悪いんだけど、蛍光灯替えて貰えるかしら」
「承知した!」
「あら、またテレビが光って……」
「儂への伝言であるな」
「不思議ねぇ。貴方もテレビから出てきたし」
「ブラウン管だからこそ出来るのだ。魔法の鏡の魔力回路と構造が似ているからな」
「物知りねぇ」
文字を読んだ大魔王の顔が曇る。
「どうしたの?」
「部下達からだ。聖女が偽物だったと。城を好き勝手しているそうだ。だがあの女の色香に迷って儂を追放したくせに、今更……」
「戻っておあげなさい」
「!?」
「必要としてくれる人がいるのは、とても有り難い事よ」
「しかし……」
「貴方に出来る事なら何でもしてくれるんでしょ?」
「そういう意味では無く……」
「お願い」
手を握られて、大魔王は折れた。
「分かった。だが片を付けたらまたここに戻る! 儂には其方が必要だ!」
「えぇ、待っているわ」
大魔王はブラウン管に消えた。
「おじいさん、もう少し待ってくださいね。貴方の若い頃にそっくりの人に、必要だ、なんて言われちゃって」
仏壇の鉦が澄んだ音を立てた。
読了ありがとうございました。
老婦人がヒロインという珍しいジャンルにしてみました。需要はあるのでしょうか。いや、LINEマンガの「困ったじいさん」もアニメ化するくらいだから、きっと!
ではまた次回作でお会いしましょう。