アリとキリギリスⅡ(もうひとつの昔話 41)
夏の野原で、アリたちが食料集めをしています。
そんなとき。
草むらから歌声が聞こえてきました。
――だれだろう?
一匹のアリが仲間の列を離れてのぞき見ますと、そこには歌っているキリギリスがおりました。
アリはキリギリスに声をかけました。
「楽しそうですねえ」
「ああ、毎日こうやって歌っているのさ。歌っているときが一番幸せだからね」
キリギリスが笑顔で答えます。
「キリギリスさんはいいですね。ボクは毎日、あくせく働いてばかりなんです」
「だったらきみも、わたしのように楽しく暮らせばいいではないか」
「そうもいかないんです。今は夏だから食べ物はたくさんありますが、冬になったらなくなってしまいますもの」
「ハハハ……」
キリギリスが笑って答えます。
「冬のことは、冬が来てから考えればいいのさ」
「それでだいじょうぶなんですか?」
「食べ物なんてなんとかなるものさ」
キリギリスはそう言ってから、再び陽気に歌い始めました。
――いいなあ。
アリはキリギリスのように楽しく暮らしたいと思いました。
夏が終わり秋になりました。
アリはキリギリスの家にいて、一日じゅう、キリギリスといっしょに歌っていました。朝から晩まで働くのがイヤになっていたのです。
そんなある日。
仲間のリーダーが心配してやってきました。
「オマエ、どうして働かないんだ? 冬になったら食べ物がなくなるんだぞ」
「冬のことは、冬が来てから考えます。ボクは楽しく暮らしていたいんです」
アリは笑って答えました。
「食べ物がなくなったらどうするんだ?」
「それならだいじょうぶ。だから、ボクのことはほっといてください」
アリは仲間のリーダーを追い返しました。
冬がやって来ました。
キリギリスの家には、もう食べ物が残っていませんでした。
「腹がへったなあ」
キリギリスはベッドで寝ていました。やせ細り、思うように動けなくなっていたのです。
「だいじょうぶですか?」
アリはキリギリスの顔をのぞきこみました。
「わたしはじきにあの世に行くよ。でも、後悔はしていないんだ。好きなことをしてきたからね」
次の日。
キリギリスは息を引き取りました。
春になりました。
アリたちは巣穴を出て、野原のあちこちで食料集めを始めました。
そんなとき。
草むらから歌声が聞こえてきました。
――だれだろう?
一匹のアリが仲間の列を離れてのぞき見ますと、そこには歌っているアリがおりました。
そばのベッドの上には、体の一部がなくなったキリギリスがありました。