6話 冒険者登録
よし、次の行先はギルドだ。
冒険者登録をしよう。
父さんも昔は冒険者だったらしい。
父さんは自分のことをあまり話さない人だったから、冒険者としての力は分からないけど、狩りの実力からすると結構強かったんじゃなかろうか?
まあ、俺と父さんでは持っている強さのベクトルも目指すところも違う。
俺は今のところガッツリ冒険者家業にのめり込むつもりもないし、他に面白いことがあったらそちらに手を出すだろう。
「っと、着いたか」
さて、ここで一つだけ懸念していることがある。
噂に聞くテンプレと言うものだ。
冒険者ギルドで冒険者登録しようとすると、強面のオッサンがカツアゲしてくるらしい。
へっ、やれるもんならやってみな。
逆にカツアゲし返してやるぜ。
そんなことを考えていた俺は悪い笑みを浮かべながらギルドの扉を潜った。
◇
「初めまして。受付嬢のミラと申します」
綺麗なお姉さんが対応してくれた。
「ジャックです。冒険者登録をしに来ました」
「ではこちらの用紙に必要事項を記入してください」
ミラさんが紙を差し出してくる。
俺はその指示に従って空欄を埋めていく。
どうやら書くのは名前や年齢くらいで所持スキルなどの任意の項目も多い。
じゃあスキルとかは書かなくてもいいや。
「お願いします」
最低限のことを書いてミラさんに紙を渡す。
「はい、確認できました。それではこちらに血を一滴たらしてください」
ミラさんは何かの装置に先程俺が書いた紙をセットすると、小型ナイフを渡してきた。
指を軽く切って血を落とすと、装置からカードが出てくる。
「これがギルドカードになります。初めはGランクからとなります。ギルド一同ジャック様を歓迎致します」
ミラさんはそう言うと俺に一礼する。
冒険者登録する人全員にやっている事だと分かっていても何だかむず痒いな。
「それでは当ギルドにおける規約などを簡単に説明させて頂きますね。まず、冒険者にはランクがあり、一番下がG、一番上がSとなります。Cランク以上になるには昇格試験が設けられております。また、昇格の基準としましては依頼の達成やギルドへの貢献度などが挙げられますが、基本的にギルド内で判断しているためいつ昇格するか、いつ昇格試験を受けられるかなどは冒険者の方々には分からないようになっております」
なるほどね。
ギルドで昇格させてもいいと判断したら、昇格なり、昇格試験の通知が来るようだ。
「次に依頼の説明をさせて頂きます。依頼は通常、指名、緊急の三種類があり、一般的には通常依頼を受けて頂くことになります。指名依頼は依頼者による指名がありましたらギルドが仲介する形で直接お願いすることになります。ただし、強制ではありませんので断って頂いても構いません。緊急依頼はその名の通り緊急時に招集がかかる依頼です。主に魔物の氾濫などが挙げられます」
ミラさんが依頼の仕組みを丁寧に説明してくれる。
「通常依頼はギルド中央の掲示板に張り出されておりますので剥がして受付までお持ちください。また常駐依頼につきましては依頼書をお持ち頂かなくても結構です。納品が確認できましたら依頼達成となります」
ゴブリン討伐や薬草採取などの常駐依頼は、規定の数の二倍納品したら、依頼も二回達成したことになるらしい。
「素材の買取などはあちらのカウンターにて行っております。その奥に解体場がありますので、そのままお持ち頂いても構いません」
「すみません、ひとつ聞いてもいいですか?」
「なんでしょうか?」
「買い取りって依頼を受けてない物でも大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
それならよかった。
わざわざスライムやゴブリンとかの雑魚を倒さなくても金が稼げる。
「ありがとうございます」
「はい。えーと、あとはギルドの立ち位置ですね。ギルドは基本的に中立の立場を取らせて頂いているため、冒険者同士の争いには基本的に関与いたしません。その点をご了承ください」
中立か。
まあ、この荒くれ者の巣窟が冒険者ギルドだ。
頻繁に起こるであろう問題全てにギルドが関与するのも無理があるだろうしな。
「説明は以上となります。分からないことがありましたらいつでもお聞きください」
「ありがとうございました」
俺はミラさんにお礼を言って掲示板に目を通そうと歩き出した、が邪魔された。
「おいおい、ここはお前みたいな見るからに弱そうなガキが来る場所じゃねえんだよ。武器も持たずに何が冒険者だ。痛い目見る前に有り金全部置いて帰りな」
俺の目の前でチンピラと呼ぶに相応しいオッサンがニヤニヤと笑っている。
これが噂のテンプレか。
しかもカツアゲ。
俺は口元が吊り上がるのを感じた。
「オッサン、実力差も分からないほどボケてるんだったら冒険者家業は引退した方が身のためだ。そんなんじゃすぐ死ぬぜ」
俺にはゼロノス様からお詫びで貰った鑑定がある。
鑑定でオッサンを見て驚愕したね。
よくこの程度で俺に絡んできたなと。
「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ、このガキ!」
オッサンは殴りかかってきた。
俺に対してその行動は最大の悪手になるとも知らずに。
「なっ?」
俺の回避が発動して、オッサンの拳は空を切る。
おっそ!?
自力で避けられるくらいにはトロい攻撃だな。
だが一回避には変わりない。
オッサンのHPは削れている。
「ふざけやがって」
オッサンはどんどん殴りかかってくる。
それが自分の首を締めていることにいつ気付くだろうか?
これではHPが尽きて死ぬのも時間の問題だ。
こうも早くゼロノス様に制限を付けてもらっておいてよかったと感じるとはな。
「おい、オッサン。そろそろ諦めろ。死ぬぞ?」
オッサンのHPが残り少なくなってきたところで優しい俺は忠告をしてやる。
オッサンもようやく自身が死にかけであることに気付いたようだ。
「てめえ、何をした!?」
「オッサンの攻撃を躱すと同時にカウンターもしてたんだよ。早すぎて見えなかったか?」
嘘は言ってない。
だが速度云々は全くもって関係ない。
「ちっ、くそっ! 今日は見逃してやる」
ほう。
まだそんなことが言えるとは関心した。
まあ、これ以上どうこうしようとは思わないが。
俺は身に掛かる火の粉を振り払っただけだ。
オッサンが逃げるように去っていくのを見送った俺は、依頼が張り出されている掲示板の前に立つ。
「おい坊主、やるじゃねえか」
そこで話しかけられた。
「あのジーンを軽く追い払うとはな」
あのオッサンはジーンという名前なのか。
まあ、特に覚える必要もないだろう。
「いつもあんなことしてるのか?」
「ああ、登録しに来たばかりの奴を狙ってああいうのを繰り返してる」
「へえ。登録しに来たばかりの奴なら勝てると思ってるなら甘いね」
「そうみたいだな。見させてもらったがスカッとしたぜ」
その男は俺の背中をばしばし叩くと去っていった。
「さて、何を受けようか」
Gランクの依頼といえど数はそこそこあるな。
まあ、適当にウルフの討伐依頼でも受けるか。
俺はウルフ討伐の依頼を剥がし、カウンターに持っていく。
すると偶然にもまたミラさんが対応してくれた。
「あの、先程ジーン様に絡まれていたようでしたが、大丈夫でしたか?」
「はい。特に何もありませんでしたよ」
こっちはな。
あのオッサンの被害は結構でかかったと思う。
「それならいいのですが……ジャック様はお強いのですね」
「いや、そんなことないですよ」
強いのは確かだが、俺のスキルは初見殺しだ。
種が割れれば当然対策もされるだろう。
そう簡単にバレるとも思わないし、万人が対策できるとも思えないが。
「はい。受注が完了しました。頑張ってくださいね」
ミラさんがにこやかに微笑む。
くそっ、かわいいな。
ミラさんの笑顔で気合い十分。
頑張って回避して来ますか!