5話 技神アルマ
「あー! そいつがゼロノスが言ってた奴ー?」
突然割り込んできた第三者の声。
「おお、アルマか。そうじゃ。彼がジャック君じゃ」
「初めまして! 私は技神アルマ。よろしくねジャック!」
「お、おう? よろしくな?」
なんというか勢いのある子だな。
つうか今、技神って言ったか?
は? 神? こんなちっこい子が?
「あー! 今小さいって思ったでしょ」
アルマのジト目が俺を射抜く。
「そんなこと……あるけど」
「ほらー! やっぱり!」
プンプンと頬を膨らませて怒りを表現しているのはとても可愛らしい仕草だ。
「悪かったよ」
「私は優しいから許すけど他の神だとどうなるか分からないよ。私やゼロノスみたいに温厚じゃない神もいるんだから気を付けてよ」
「肝に銘じておきます」
ゼロノスとの会話に慣れてきてそのままのノリで話してしまったが……そうだよな。
ここは神界。住んでいるのは神様。
ゼロノスが許可したことを他の神様も許すかどうかは分からない。
迂闊な行動は控えよう。
「これこれ。わしが普段通りに接して欲しいと頼んだんじゃ。余りジャック君をいじめないでくれ」
「むー、分かったよ」
「えっと、アルマ様は俺の事を知っていたんですか?」
「別に私も敬語はいらないよ」
敬語がいらない。
小さいというNGワードを口にしなければいいということか。
うっかり口にしないように気を付けよう。
「俺の事をゼロノス様から聞いていたのか?」
「うん。なんて言ったってジャックは久しぶりの被害者だからね」
「被害者?」
「そうだよ。ゼロノスって創造神の癖におっちょこちょいだからたまに物凄いミスをするんだよ。ジャックのスキルみたいな」
へえ。
このいかにも有能そうなゼロノス様がおっちょこちょいか。
俺のスキルで何かしらのミスをしたのは事実だけど、めちゃくちゃ盛大にやらかす姿は想像がつかないな。
「ちょうど100年くらい前かなー、下界にスキルをばらまいたりしてたよね。本来人間に授けられるスキルは五個までなのに多い人だと二十個くらい授かっちゃったし、後始末が大変だったよ」
「恥ずかしい話じゃ。くしゃみをしてスキルを落っことしてしまったわい」
「もー、笑い事じゃないんだからね」
ホントだよ。
このじいさんとんでもないことしてくれたな。
「それ、どうやって収集つけたんだ?」
「神殿を管理する者に神託という形で命令して、沢山スキルを授かった子達を集めて返して貰ったよ」
アルマがため息をつく。
それだけで当時の苦労が伺える。
「他には何かあるのか?」
「そうだねー。これは数千年単位で昔のことだけど、ゼロノスが寝惚けてて――」
「それはいかん。よし、この話はもうやめよう」
何やら聞かれたくない事のようだ。
ゼロノス様は息を荒らげながらむりやり話を終わらせる。
一体何をしでかしたこのじいさん……。
「ジャックは反射と回避だっけ? ただでさえ相性悪いのに変な事になっちゃったね。避けたら反射とか面白すぎ」
アルマはケラケラと笑っている。
「俺は結構使い勝手いいと思ってるけどな。使っている内に回避もデフォルトになってきたし」
「へえ。対人戦なら敵無しってやつ?」
「いや、さっきゼロノス様と試してて分かったが、回避は相変わらず範囲攻撃に弱いし、拘束とか直接の害がないものには発動しないから敵無しとは言えないな」
「ふーん」
ふーんて。
興味なしか。
まあ、俺のスキルなんてどうでもいいけどさ。
「あっ、そういえばジャックさー、ゼロノスから錬金術スキル貰ったんでしょ? ちゃんと使ってる?」
「使ってるけど……なんで?」
「もー、私が何の神か忘れたの?」
「いや、技神だろ……ってそういう事か」
「そういうことー。どう?」
「使ってるけど上達した感じはしないな。俺の母さんが凄かったから比べてしまうというのもあるけど」
「大丈夫だよ! 使っていればそのうち上達するって。ほらー、努力は裏切らないってやつ?」
なんだよ。
こんなところで優しさ見せやがって。
泣いちゃうだろ。
「ほら、なんかあったら私の像に祈ってくれれば、相談にはのってあげるよ?」
あなたは神か。
そういえば神でしたね。
「ありがとう、アルマ様」
「うん!」
話すことが無くなったのか沈黙が続く。
するとアルマ様と話している間は空気だったゼロノス様が気を利かせてくれた。
「アルマ、用は済んだかの? ジャック君は帰るところだったんじゃ」
「うん! 久しぶりに人間とおしゃべり出来て楽しかったよ!」
ゼロノス様が話を切り上げてくれる。
アルマ様は相変わらず無邪気な笑顔だ。
「では、またの。何かあったら神殿に来なさい」
「じゃあねー。また来てね!」
ゼロノス様とアルマ様が手を振る。
すると俺は眩い光に包まれ、現実世界に引き戻された。
◇
◇
「ふう」
神殿に戻り、目を開けた俺は立ち上がり息を吐いた。
まさかゼロノス様以外の神と会うことが出来るなんて思いもしなかった。
てか、今更だけど俺って結構凄いのか?
普通に神にあって友達感覚でおしゃべりしてるんですが?
まあ、ゼロノス様もアルマ様もとやかく言うようなお方ではないし、気にする必要もないだろう。
「おや?」
神殿から出ようとすると、親切にもゼロノス様について教えてくれた神官さんとすれ違う。
「ちゃんと祈りを捧げてきたかい?」
「はい。バッチリです」
祈りを捧げたどころの話では収まらないけどな。
祈りが届いて神託を受けるのを通り越して神界に行ってきたぜ。
信じてくれないだろうから言わないけど。
「今日はありがとうございました。困ったことがあればまた来ます」
神官さんにお礼を言って俺は神殿を後にした。
さてこれからどうしようか?




