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4話 創造神ゼロノス

 俺は神殿があるラトビアという町に来ていた。

 俺の故郷であるカヅラとは違い、人々が集まる活気ある町だ。


「まずは神殿に行くか」


 神様にスキルのことで聞きたいこともある。

 神界に行けるかは分からないが、相談は出来るって言ってたから多分大丈夫だろう。


 そういうわけで俺は神殿に向かう。

 神殿は基本誰でも自由に立ち入ることが出来て、自身が信仰する神に祈りを捧げる場所だ。


「おや、君は……」


 俺は神殿の入口で神官さんに声をかけられた。


「確か反射と回避を授かった子だね」


 どうやら神官さんは俺のことを知っているようだ。


「どうして俺の事を?」


「いや、何。僕も成人の儀には居合わせていてね。授かったスキルを記録する役をしていたんだが、君は特に印象に残っていたんだ」


「なんでですか?」


「普通組み合わせが悪かったりすると不満を言ったりする人が多いからね。でも君はそんな素振りも見せなかった。だから覚えていたんだよ」


 確かにあの時泣き喚いている人もいた。

 不遇なスキルを授かった者の反応としてはそちらが正しいのだろう。


 だが俺はそんなこと思っていない。

 むしろ神様のミスで最高の組み合わせになったとすら思っている。


「ところで君はどの神様に祈りを捧げるんだい?」


 神官さんの話が唐突に切り替わる。

 まあ、わざわざ神殿に足を運ぶとなるとスキル授与か信仰だ。

 もう既に成人は済ませている俺は信仰しかない。


 俺は神官さんの質問に答えようとして困ってしまった。

 あの立派な白ひげのおじいさん神様の名前を知らない。

 そんなことを神官さんの前で口にしたら怒られるだろうか?


「あの、白い立派なひげをお持ちの神様ってなんというお名前なんですか?」


 俺はなるべく怒らせないようにおじいさんの名前を聞く。

 神官さんは特に怒りもせずに笑って答えてくれた。


「それは創造神ゼロノス様だね。この世界を作り出した偉い神様だよ」


 へえ、あのおじいさん、そんな偉かったのか。


「ゼロノス様に信仰か。理由を聞いても?」


「えっと、神官さんは俺のスキルを憐れんでいるのかもしれないですけど、俺はこのスキルを授けてくれたゼロノス様に感謝しています」


 素晴らしいうっかりミスまでしてくれたからね。

 ありがたや。


「そうなんだ。その感謝の心を込めて祈れば、ゼロノス様も応えてくれるかもしれないね」


 まあその心配はしていない。

 というか応えてくれないと困る。

 こっちは色々聞きたいことがあるんだ。


「長々と引き止めて悪かったね。さあ、行っておいで」


 神官さんは柔らかな微笑みで俺を見送ってくれた。


 ◇


「これがゼロノス様の像か」


 以前来た時は特に意識していなかったが改めて見ると……あんまり似てないな。

 本物のひげはもっと立派だった。

 この像はゼロノス様のアイデンティティを三割も表現出来てない。


 まあそんなことはどうでもいい。

 俺は膝をつき、祈りを捧げる。


 すると体が眩い光に包まれる。

 いや、神界に連れていかれるんかーい。


 そんなツッコミも虚しく、視界は切り替わる。


 ◇


「いや、神界に連れていくなら先に一言言ってくださいよ」


「ほほ、すまんの」


 全く悪びれる様子もなく俺の目の前でゼロノス様は笑っている。


「やっぱ本物の方がよく出来てるよな」


 ひげだ。

 神殿の像なんかとは比べ物にならないほどの芸術性を秘めた白いひげ。


「なんじゃ?」


「いや、神殿にあるゼロノス様の像だとその立派なひげの魅力が全然引き出せてないなーって思いまして」


「ほう! このひげのよさが分かるのか!」


 ゼロノス様は心無しか嬉しそうだ。


「いや、他の神にもこの自慢のひげの邪魔とか暑苦しいとか悪口ばかり言われてての。褒められたのは久しぶりだったんじゃ」


 そうか。

 神も色々苦労してるんだな。


「それで今日はなんの用じゃ? と言っても察しはついとるがの」


「それなら話が早いです」


「ジャック君さえ良ければだが敬語はやめてくれんかの。自然体で話してくれた方がこちらとしても楽じゃ」


「そんなこと言われても……」


 突然敬語いらんと言われても……神様だしなぁ。


「わしより神格の低い神にもフレンドリーに話されるし、今更じゃ」


 そんな神様と同一に語られても……俺はただの人間だし。


 はぁぁぁぁ、困った。

 何とか頑張ってみるけどさ。


「えっと、分かった?」


「なぜ、疑問形なんじゃ? まあゆっくり慣れてくれればよいわ」


「そうしま……そうするよ」


 いつも通り話すだけでいいのに、相手が神と言うだけで中々上手くいかないな。

 さすが神だ。


「今日はスキルのことで聞きたいことがあったんだ」


「ふむ。そうじゃろうとは思っておる」


「単刀直入に聞くが、俺の回避スキルに何が起こってる?」


 ちょっと慣れてきた。

 正直ちょっと怖いけど何とか敬語なしで喋れてるよ。


「分からぬ」


 は? 分からぬ?

 何を言っているんだこの創造神は?


「そもそも回避というスキルにジャック君に発現したようなものはない。なんじゃ? 転移や毒物回避とは? わしが聞きたいわい」


 ええー。

 ゼロノス様でも知らないのか。

 どうなっているんだ、俺のスキル?


「ジャック君はそのスキルをどこまで把握しておる?」


「正直いって全然。特に対人でどう発動するかは全く分からない。今まで魔物でしか試してないから」


「では試してみるかの」


「は?」


「ここは神界じゃ。死にはしないし、傷もつかないから安心するんじゃ」


 ゼロノス様はそう言うと、物凄い雷を俺に落とした。

 刹那――俺の体はブレ、雷が落ちた真横に移動していた。

 うぉおおおお!?

 いきなり何すんだこのじじい!?


「ほっほ。それがジャック君の回避か。目の前で見るとますます不思議じゃの」


 なあにがほっほだ。

 回避が発動してなかったら即死だぞ!?


「ではこれはどうじゃ?」


 無数の雷が俺を襲う。

 てか逃げ場なくね?

 そんなことを考えていると回避は発動した。

 だが回避で移動したポイントにも雷は落ちている。

 そこでもう一度回避が発動――する前に雷が俺の身体を貫いた。


「あばばばばばば……ば?」


 あれ? 痛くない?

 生きてる?


「何を驚いておるんじゃ。先程死にもしないし、傷もつかんと言ったじゃろ」


 そう言えば言ってたな。

 いきなり雷が落ちてきて動揺しちまったぜ。


「ふむ。やはり範囲攻撃には弱いか。それは回避スキルの宿命じゃの」


 当然ながらスキルにはクールタイムと呼ばれるものが存在する。

 俺の回避にも極わずかな短い時間だがそれが存在する。

 もしクールタイムがないのであれば連続転位で雷の範囲外に逃れることも出来ただろう。


 そんなことを考えていると突然俺の身体が鎖のようなもので拘束された。

 回避が発動しない?


 すると鎖からジャキンと嫌な音が聞こえた。

 その音を聞いた時には、俺の身体は鎖から抜け出していた。


「ふむ。直接的な攻撃でないと発動せんか」


 ゼロノス様の言葉を聞き、鎖を確認してみると、鎖から剣先のような鋭い刃が突き出ていた。


「拘束などの直接的な被害に繋がらないものには発動しない。それに密着状態の攻撃にも回避は発動する……か」


 分析するとこうだ。

 あくまでも攻撃に反応するということか。


「というかゼロノス様。反射ダメージは大丈夫なのか?」


 初めの雷はゼロノス様の攻撃と認識していなかったから反射は恐らく発動していない。

 しかし、次の範囲攻撃の雷はゼロノス様の攻撃と認識した上で1発避けた。

 その分の反射は発動したはずだ。


 まあ、雷に打たれた俺が死んでいないのだ。

 いらぬ心配かもしれないが念の為だ。


「うむ。ばっちり固定ダメージを食らっておるぞ。避けるだけでダメージが通るとは……偶然の産物とはいえ、恐ろしいスキルじゃ」


「俺からこのスキルを取り上げるか?」


「そんなことはせんよ。それをしたらこの世界には取り上げなければならないスキルを持った者が多すぎる。剣で殺人が為されたら悪いのは剣か? 違うじゃろ? スキルもそれと同じじゃ」


 おお、いいこと言うな。

 要は使用者次第と言うことか。


「とは言え少し理不尽でもあるかの。何せダメージが通っておるか分かりづらい。痛みもなしにダメージだけとなると、何も知らずに死ぬ輩が続出しそうじゃの」


「どういうことだ?」


「例えばの話じゃ。ジャック君を憎んでいる者がいるとするじゃろ? その者はジャック君に攻撃を仕掛けた。だがジャック君の回避が発動、それと同時に反射も発動しその者にダメージを与える。だがその者はダメージは入っていることに気付かずにジャック君に攻撃を続けた。するとどうなる?」


「俺が回避をやめない限り、ダメージを受け続けてやがて死ぬ?」


「そうじゃ。それにジャック君の反射が進化し、固定ダメージ量が多くなったりする可能性もある。ジャック君も知らぬ間に相手を殺していたなんてことになるのは嫌じゃろ?」


「そう……だな。せめて殺すにしても自分の意思で選択出来るようになりたいな」


「ならばオンオフを付けるかの。オフの時はHPを1残してそれ以上の反射ダメージは無効。オンの時のみ全てのHPを削り取れるというのはどうじゃ?」


 そうだな。

 そうした方が良さそうだ。


「それで頼む」


「分かったのじゃ」


 毎度のことゼロノス様は俺の頭に手をかざす。

 もう三度目になるが、この温かいものを送られるのは中々癖になるな。


「ほれ、終わったぞい。確認してくれ」


「ん、確かにオンオフの機能がある」


「うむ、ひとまず安心じゃの。これからは自分の意思で反射するか否かを決めるのじゃ」


 早い段階で相談に来ておいて良かったと切実に思う。

 そしてとりあえずスキルについてもある程度知ることが出来たので俺は満足だ。


「じゃあ今日はあり――」


「あー! そいつがゼロノスが言ってた奴ー?」


 お礼を言って現実世界に帰してもらおうとしたところで第三者の声に遮られた。



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